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ここは、「Luftleitbahnen」の別館です。
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シリアス・ラヴを書きたかったんですが
・・・・・ただのバカップルですか?
読み直してみると、私の方が赤面しそうです。
恋愛ものを文章にするのは難しいです。

- 満月の夜想曲 -

雲もなく澄み切った空は
まるでビロードを敷き詰めたように
輝きと深みに沈んでいく


彼方に消え去る太陽を追うかのように
それは静かに浮かび上がり
いつになく優しい銀光を地上に投げかけはじめた


・・・・・・今夜は満月・・・・・・
彼と逢える、夢の夜


実際夢かな?


舞耶はベランダからその月を眺め
そんなことを考えながら一人静かに風を感じる
うららの帰りを待っているのだ
今日はパオとともに新しいクライアントに
会いに行くといっていた
高校以来のこの親友は
いつになく最近生き生きしている
それは舞耶の目から見ても明らかだった


舞耶の微笑が風に溶ける
空気が軽い、それは気のせいだったかもしれない
しかしあれ以来、世界が、周囲の景色が
今まで以上にクリアに見えてきたような気がしてならない


彼のおかげかな?


舞耶はくすりと笑みをこぼす


「何をにやついてるんだか」
こちらもくすりと笑いながら、うららが窓辺に立っていた
「ゴメンね、遅くなっちゃって。だいたいそれもこれも・・
って、その話はマーヤが還ってきてからの方がいいっか」
うららは一度言葉を切ると、舞耶にならって月を見つめた
「ほんと綺麗な満月よねぇ・・・・で?準備はもういいわけ?」
うららの問いに舞耶は極上の笑顔を浮かべ応える
「もちろん!って言っても別に準備が要るわけじゃないしね♪
・・・ごめんねぇ、新しい依頼人に会ってたんでしょ?」
舞耶はすまなそうにうららを見返す
「なにいってるんだか。マーヤはそんなこと気にしなくたっていいの。
さっ行っといで!待ってるんでしょ?彼」
うららは舞耶の背を軽くたたいてそう促す
「・・・うん!じゃぁ行って来るね♪時間はこないだと同じでお願い。」
舞耶はそう告げるとためらいもなく愛銃の引き金を引く


乾いた音を響かせて舞耶の身体が崩れ落ちる
うららはゆっくりと舞耶の身体をベットに横たえ
その幸せそうな(それでいて顔色の悪い)顔を見つめながらそっと呟く
「いい夢を・・ね」
うららもまた微笑んでいた


そう、まだ銀円の月はそのベールを脱いだばかりだった


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
同時刻並行世界側
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


銀光に照らされたアラヤ神社は
まるでそこだけ切り取られた絵画のように
静かにそこにたたずんでいた


「・・・それは構わないけど。お兄さんは、いいの?」
一応確認するように杏奈が告げる
「ああ。言うとうるさいからな」
達哉はそれだけ告げると携帯していた日本刀を抜く
「悪いな。・・・後は頼む」
社に背を預けるように腰をおろし
達哉は手首に当てた刃を滑らせた
あの女はもう来てるだろうか?
そんな事を考えながら達哉の意識はその場を離れた


「ほんとは心配かけたくないくせに
・・・・不器用なとこは変わらない」
杏奈は眠っているような達哉を見下ろし一人ごちる
目覚めて以来どこか変わった級友
そんなに達哉を知っていたわけではない
それでも分った、何かが変わったことは
「人が人を想う気持ち・・・か
まだ捨てたもんじゃないかな?」
そんな事を呟きながら、杏奈は月を仰ぎ見る


それを綺麗だと思えるようになった自分に多少の驚きを覚えながらも
杏奈はそれもいいかと思った


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さらに同時刻普遍的無意識
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


先だっての思わぬ客人の訪問に
さすがに驚きを覚えた自我の導きて-フィレモン-だが
それも人の持つ一つの可能性と思えばこそ
興味深い対称だと今更ながらに感にいっていた


無意識の海を波が走る


ゆっくりと燐光が集まり次第に人の形を成す
舞耶はゆっくり目を開けると
見知ったその場所に彼の姿を探した


「かの少年はまだ来ておらぬよ」
背後から聞こえた想像通りではあるが
期待はずれのその声に舞耶は振り返った
「ちょっと早かったかな?」
落胆と自嘲を合わせたような笑みを浮かべ舞耶は告げる
そんな舞耶に静かな声は続けた
「まだ月は昇ったばかり、少年もすぐ来よう」
舞耶はいつになく気を使っているように見えるフィレモンにおかしさを覚えた
くすくすと笑いながら
「そうよね、・・・そういえばあの服やめたの?」
見慣れた格好の仮面の男に問い掛ける
「君たちに思い切り踏まれたのでね・・・・・」
こちらも苦笑を浮かべつつ、どこまで本気で
どこまで嘘かわからぬ答えを返してくる


波が伝わる


再び燐光がゆっくりと集まり人型を成す
そこに達哉が立っていた


「達哉君!!」
舞耶は満面の笑みを浮かべ待ち人の来訪に心を躍らせた
「舞耶姉!・・・もしかして待たせたか?」
目を開けてすぐに舞耶の姿を認め、達哉は少し心配した
待たせてしまったのではないかと
「そんな事無いぞ、私も今来たところ」
そんな達哉の姿に舞耶は愛しさを覚えてならなかった
「・・・良かった」
達哉の方もそんな舞耶の気持ちを知ってか知らずかほっとして笑顔を浮かべる


「どうやら待ち人も来たようだ・・・・
邪魔者はいなくなるとしようか」
フィレモンはそう告げるとその姿を金色の蝶へと変じる
達哉はある意味フィレモンの気遣いに驚きを覚え問い返した
「・・・いいのか?」
そんな達哉の問いに金色の蝶は二人の頭上を一閃し
「この巡り合いを、世界の境界さえ越える奇跡を成しえた君たちへの
ささやかな贈り物だよ」
そう告げるとその姿を消した


「本当は新しい服をめちゃくちゃにされないようにだったりしてね」
舞耶がさもおかしそうにそう言い笑う
達哉も釣られて笑みを浮かべる、先ほどのように


「やっとそんな風に笑ってくれるようになったね」
舞耶は心の底からの言葉を口にする
いつも辛そうな笑顔ばかりしか見ることが出来なかった
前回ここで逢ったそのときさえ、彼の笑顔を見ていない
舞耶は達哉が笑ってくれている事が何より嬉しくて仕方がなかった


だが達哉は舞耶の言葉に微苦笑になった
いつも自分に気付かせてくれるのは舞耶の言葉
でもここでしか会えない
そう思ったときに背の傷が痛んだ
いつも側にいたい!
そう想ってしまう自分に


笑顔が曇りうつむいてしまった達哉を見て、舞耶はその心が痛いほど分った
逢う事が出来ない、そう言われると逢う事を望み
いつも側にいれない、その現実にいつも側にいたいと望む
人間は本当に我儘で欲深いのかもしれない
そう思うと舞耶も胸の傷が痛んだ
自分だってそれを望んでいるのだから


短かったのだろうか、長かったのだろうか時間の流れを忘れるそこで
沈黙を破ったのは優しい動き


舞耶は達哉の頬を両手でそっと包み込み
達哉の顔を引き寄せた
自分の額を達哉の額に優しく合わせ小さく囁く
「・・・・・・そんな顔をしないで
いつでもここで逢える、そうでしょう?」
舞耶の囁きに達哉は逆に哀しみが痛みが増すのを感じる
額にあたる舞耶の感触がそれをより際立たせる
「・・・でも、俺はもう舞耶姉を守る事が出来ない」
達哉も静かに呟いていた、心の声を


「それは違うよ、達哉君はいつも私の側にいるもの
私を守ってくれてるのは他ならぬ君だよ」
舞耶の言葉の意味がわからず達哉はその間近な瞳に疑問の色を投げかける
そんな達哉に舞耶は再び引き寄せた達哉の顔をゆっくりとその胸に抱く
「ま・舞耶姉!?」
顔を真っ赤に狼狽している達哉の言葉を遮って舞耶は静かに言葉を続けた
「達哉君とこっちではじめて逢ったとき、この胸に痣が浮き出たの
血を流す不思議な痣・・今なら思い出せる、これはあの時刺された傷の跡」
その舞耶の言葉に達哉の動きが止まる
「不思議だね、一度は私の命を奪った傷なのに、今は達哉君の存在の証になってる
世界を越えて私を守る、私だけに許された君の証
君はいつも私の一番側で私を守ってくれてる」
そういった舞耶の笑顔は今まで見たことも無いほど綺麗だった
達哉は舞耶の温もりが、言葉が、そしてその笑顔が自分の為だけに向けられているのが何より嬉しかった
傷の痛みはもう無かった
いつでも側にいたい、その気持ちは変わらない
でもいつでも一番側にいる、その言葉が鎖を解き放ったようだった
舞耶もまた同じだった
いつでも側にいたい気持ちは変わらない
でもいつでも一番側に彼がいる、自分を守るヒーローが
言葉にする事でそれは何より明確になった


達哉は自分を抱く舞耶の両手をそっとはずし
真っ直ぐにその顔を見つめて微笑んだ
「やっぱり舞耶姉にはかなわないな」
その笑顔にはもう辛さの色は無い、そこにあるのは18歳の少年のそれだった
「これでも夢を伝える雑誌記者だぞ」
舞耶もまた微笑を返す、


―――――イツデモ・ダレヨリモ・ソバニイル―――――


達哉は今度は自分から舞耶を引き寄せると
「ありがとう、舞耶姉」
それだけ言ってそっと唇を重ねた
もう二人に言葉は要らなかった 
 

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