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ここは、「Luftleitbahnen」の別館です。
Fan Fiction Novel-二次創作小説-を置いてあります。
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甘いものを書くはずだったのに・・・何故か暗いだけの話に。
いや、なんていうか甘いのを書こうとすると、その甘さのための苦さがね。
そういうわけできっと次は、次こそは甘いものが・・・・・はぅぅ
それにしても、私って第3者をこき下ろす事で、二人を良く見せてるだけ?
そんな気がしてきて少し鬱。はぅ、二人は素でカッコいいはずなんだけどなぁ

∞―――――――――∞ Prop  ∞―――――――――∞



空気が凍りつくとはこういう事を言うのだろうか?

そう思わせるのに十分すぎるほどの緊張がその場を一瞬で包みこんでいた。



「それはどういう意味でしょうか?殿下」

レスカは自身の激情などおくびにもださず、困ったように小首をかしげて相手を見つめた。


「いや何、噂ですよ。噂。しかし、本当にお帰りになられてよかったですなぁ。えぇ、まったく」

男は口元に笑みを浮かべながらも、細めた瞳がまるで獲物をいたぶる狐のソレのようにレスカをねめつけていた。


(やってくれるじゃない・・・・このあたしに喧嘩売るってわけね)

男の表情に吐き気さえ覚えながら、レスカは完全にキレていた。
この男のあまりにあからさまな揶揄は、もはや我慢できる類ではなかった。
そう、それはレスカにとっては一番触れて欲しくはないものだったのだから。



思えば、この男は始めから気に食わなかった。

典型的な俗物とでも言えばいいのだろうか?
それとも器が地位に伴わない小市民とでも言うのだろうか?
要するにレスカからしてみれば、一言で言って「馬鹿」に分類される最も倦厭したい類の人物だったのは確かだ。

それでも営業スマイルを絶やさなかったのは、
一重に自分の立場と相手の地位を思えばこそだった。

相手の地位・・・・事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。
レスカは正直そう思ってさえいた。
この俗物が所謂「王子様」だと言う事実に。


このハラハラワールドにはいくつかの国が存在する。
その中でもアララ国は一番の大国だった。

ただし、一度その座を譲り渡した時期があった。
ゴブーリキの侵攻である。
あの戦いの折、一時的とはいえアララ国以上の大国となったのが、
目前に座る男の父親が治める国だったのだ。


しかしそれはほんの一時であり、ゴブーリキが滅びた後
アララ国はその地位を驚くほどの速さで取り戻していた。
元々の国力の差と、レスカの大蔵大臣への就任によるものが最たる理由だった。


多分、この「王子様」はそれが気に食わないのだろう。
まさに俗物の考えそうな事である。


(自分の力で手に入れた地位でも、名誉でもないくせに)

口を開けば自国の自慢か、遠まわしの嫌味しか発しないこの男に、
レスカは初めて見えた時から営業スマイル以外の顔をしたことが無かった。
それ以上の労力を使う事さえ無駄。そう思えたからだ。

まさに近年まれに見る愚か者。それがレスカのこの男への評価だった。

だからこそ、この記念式典でも全てスルーするつもりだった。
貼り付けた笑顔の仮面だけで十分。
それ以上の事は外交関係以外一切するつもりは無かった。



それが別の切り口から破られたのだ。
晩餐会という公の席でのこの男の一言は、まさにレスカの逆鱗に触れていた。




「流石はアララ王家の晩餐会ですなぁ、まさに之でもかと言わんばかりの豪華さで。いや羨ましい。」
「いやいや、折角遠路はるばるたくさんの方々が来てくださっておるのですからなぁ。せめて心ばかりのおもてなしですじゃ」

そんな他愛の無い(面白くも無いが)人々の会話を、
レスカが「カフェオレ」の笑顔で聞き流していた時だった。


「そういえば、あの戦の折にはお互い大変な被害を被りましたねぇ。特に未だに逃げおおせている敵将も多いとか。・・・・そういえば、カフェオレ姫は長年行方不明だったとか。妖神を倒すためにお帰りあそばされたと聞きますが。いや、流石は「聖なる三姉妹」ですなぁ」


唐突な男の言葉は、退屈な空気の色を一瞬で塗り替えるのには十分すぎるものだった。
全ての耳が、意識が嫌でもこちらを向いているのがレスカには分かった。

(コイツ・・・一体なんのつもり?・・・・・まさか、知ってる?あたしを)

レスカとダ・サイダーが元ゴブーリキの秘書及び戦闘隊長だったことは、
関係者以外には一切秘されている事だった。

勿論それだけでは全ての人々が納得するはずはなかった。
民衆はいつだって刺激を求めてやまないもの。
それゆえ様々な噂が飛び交ったのも確かだ。
それでもレスカが聖なる三姉妹の一人として、
ダ・サイダーが守護騎士を操り勇者としてゴブーリキを倒した。
この事実の前にはあえてその疑問を公に口にする者は皆無といえた。

この時までは。

「そういえば、敵将の中にはそれは美しい輝かんばかりの髪の女将もいたとか。まぁカフェオレ姫様のお美しさには敵わないでしょうがねぇ」



「それはどういう意味でしょうか?殿下」

困ったように小首をかしげながら、レスカは戦闘体制に入る。
売られた喧嘩は買うまでだ。カフエォレの仮面の下からレスカはそう断じていた。


「いや何、噂ですよ。噂。しかし、本当にお帰りになられてよかったですなぁ。えぇ、まったく」

狐の瞳がレスカを見る。

レスカは不意に憂いを帯びた表情をすると、俯き加減で静かな、しかし思いのほか通る声で部屋の空気を震わせた。

「私、・・・・・よく覚えておりませんの、行方不明と言われていたときのこと・・・。」
「閉ざされた暗闇。そのような場所に居たのだけはぼんやりと覚えております。」

声のトーンを抑えながら、レスカは憂いを深め静かに言葉を続ける。

「ただ、私にはすべきことがある。それだけは分かっておりました。」
「だからこそ、きっとその闇で耐えられたのだと思います。」

レスカは、目に涙さえ溜めた顔をあげると、男に哀しげな顔を向けた。

「お疑いになるのも当然だと思います。・・・・ですが、どうか私を少しでも哀れと思うなら・・・・殿下」

一筋の雫がレスカの頬を伝うと、周囲の凍った空気が男に集中していくのが笑えるほどに感じられた。
「なんて野蛮な・・・」、「礼儀知らずだわ」そんな囁きがあちこちから聞こえる。

「あ、いや、その、カフェオレ姫、どうかそのような。私が失礼を・・・うわっ!」


レスカの涙に慌てふためき立ち上がった男に、給仕が運んで来たスープが見事なタイミングでバッティングした。
熱さと恥ずかしさといたたまれなさに男が席を外すまで、数刻も要しはいなかった。


(ふん、分もわきまえずにあたしに喧嘩売るからこうなんのよ。バ~カ)



内心勝利の笑みを浮かべながら、レスカの顔に笑みが戻る事は無かった。


-----------



「全くよくやるよなぁ、お前も」

部屋に入るなりダ・サイダーはベランダに佇むレスカの背中に苦笑を浮かべた。

照明の落とされたレスカの部屋は、開け放たれた窓から差し込む月明かりにぼんやりとした影を落としている。
その月光を反射したように、柔らかな輝きを放つ金の髪がベランダで風に揺れていた。


「なによ、飲むなら今日は他をあたってくれない?あたしは明日も早いの。」

振り向きもしないレスカの低い声だけが風に流れて室内に木霊する。
そんなレスカの言葉を聞き流し、ダ・サイダーはベランダに出るとその後姿に目を細めた。

「全部計算してたろ?・・・ったくスープまでかけちまうとはなぁ、ほんと怖い女だよお前は」

レスカの横に並びながら面白そうに笑ってダ・サイダーは月を見上げた。
雲ひとつ無い空から、綺麗な満月が見下ろしている。

「あいつが喧嘩売ってきたのを買ったまでよ。悪い?」

悪びれた風など微塵も無い口調で睨みつけてくるレスカに、
ダ・サイダーはレスカの方を向きながら溜め息混じりに呟いた。

「それで泣いてまでみせたってか?・・・やりすぎだっつぅの・・・・でもな」

言うが早いかダ・サイダーはレスカの月に照らされた顔を肩口に抱き寄せていた。

「ちょ、何すんのよ、離しな・・」
「お前だけじゃねぇよ。悔しいのは」

「!!」


唐突なダ・サイダーの行動に戸惑いながらもがいていたレスカだったが、
その一言に身体をビクンと一度大きく跳ねさせるとそのまま静かになった。



静かに・・・・ただ静かにレスカの身体は小刻みに震えていた。



レスカは泣いていた。
ダ・サイダーの肩に顔を埋めたまま、声を立てずにただ涙を流した。



あの男が言った言葉、それはレスカにとっては自分そのものへの悔しさに他ならなかった。
レスカは悔しかったのだ、自分が、レスカという自分自身が。


ホイホイ城でカフェオレとしての自分を自覚した時、レスカの前には二つの選択肢があった。
「カフェオレ」を取るか、「レスカ」を取るかだ。


そしてレスカは、「レスカ」を取った。
それはそれまでの自分を形成したものを捨てたくは無かったから、
レスカとして生きてきた時間を無駄なものにしたくなかったから。
何より、今更レスカ以外の自分など考えられなかったからだ。

だがそれは、同時に永遠に消えない罪と後悔を背負う事とも同義だった。
ドン・ハルマゲの元で自分がしてきた数々の所業。
洗脳されていた、そうするしかなかった。そんな事は言い訳に過ぎない。

そう、言い訳に過ぎないのだ。


何故なら、全てはこの手が行ったのだから。
全てはこの名前の元に行ったのだから。

レスカが、レスカとして行い、そしてその全てをレスカとして自分は選んだのだ。


その決意を、その選択の重さを、あの男はたった一言で踏みにじったのだ。
レスカにはそれが悔しかった。
レスカにはそれが哀しかった。



あの涙だけは・・・・紛れも無い本物だった



「いいんだよ、お前はそれで・・・・お前はレスカなんだから」

ダ・サイダーの声が子守唄のようにレスカの身体に浸透する。

分かってはいるのだ、例え何度同じ選択を迫られても、
自分は「レスカ」を取るだろう。

その過去の全てを背負う事になっても・・・だ。

でもたまにどうしようもなく苦しい時がある、
分かっていても憤る時がある・・・そしてそんな自分さえ・・・


(そう、あたしはあたし、全部ひっくるめてレスカだよね?)



レスカの意識は、いつしか夜の闇よりも暗い所へ優しい所へ落ちていった。




何分、いや何十分そうしていたのだろう。
ダ・サイダーはレスカを引き寄せたまま空を見上げていた。

時折その髪をなでながら、夜の闇のように動かずにレスカを包んで居た。

我がままで、意地っ張りで、プライドの高い女。
その実誰よりも努力家で、芯の強い女

そうでなければ生きられなかった。
そうでなければ自分で居られなかった。
そんな場所にずっと居た。
だからこそ、弱みは決して表には出さない、いや出せないのだ。


そうして・・・レスカはいつも一人で泣くのだ。
たった一人で声も立てずに。



ダ・サイダーはそんなレスカを見たくなかった。
しかし涙を止める術を知らなかった。
だから傍に居る事にしたのだ。

その涙が止まるまで、いつまでも。


「いいんだよ、お前はそれで・・・・お前はレスカなんだから」

それは自分に言ったのかもしれない。
ダ・サイダーがそんな事を自問自答し始めた時、ふと肩にかかる重みが変化した。


泣きつかれて眠ったレスカを起こさないように優しく抱き上げると、そっとベットまで運んでいく。
泣いた事で幾分気持ちが落ち着いたのか、その顔は薄らと笑みさえ浮かんで見えた。

(明日、目、腫れてなきゃいいけどな・・・まぁこいつのことだ大丈夫だろ)

毛布をかけてやってから、うっすらと目尻に残る涙を指ですくう。

「いい夢見ろよ」

そう言い残してダ・サイダーは部屋を後にした。




レスカの部屋から出て、ダ・サイダーが2度目の角を曲がった時、
前方の闇から影が踊り出た。

「ダーリン♪言われた通り準備出来たジャン!」

ヘビメタコが嬉しそうに所定の位置に収まりながらその首を寄せた。
ダ・サイダーはそんなヘビメタコを撫でると、不敵な笑みを浮かべた。

「おう!丁度いいタイミングだぜ、ヘビメタコ。」

少し塩味のする指をペロリと舐めながら、ダ・サイダーの笑みはますます深まっていった。

「そいじゃ行くか。・・・・礼はきっちり返さんとな。」

夜は、まだもう少し長そうだった。一部では・・・・・。





翌日、記念式典の閉幕を待たずに隣国の王子は急病で帰国していった。
それ以降2度とアララ国の地を踏む事は無かったと言う。






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