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ここは、「Luftleitbahnen」の別館です。
Fan Fiction Novel-二次創作小説-を置いてあります。
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進藤様への捧げモノ第二弾のその後。
聖夜の続きの位置づけです。内容はシリアスなお正月話。
え?今3月末?HAHAHAHAHAHAボブ、気にしちゃだめだぜ!! ←誰だよ
これを書いたのは年末ですが・・・
今思うと、今こそ自分に問いかけたい内容かもしれません。
※Web掲載に際し、少し文脈を変えてあります。

一応、捧げもの連作はここまでとなっております。

捧げ物用でしたので、本当は別の名前で書かせていただいておりましたが、
自ブログアップに際してハム子を「透流」に変更しております。

あと、元々は縦書き用だったので、Web用にちょっと手直しして有ります。


∞―――――――――――――――――――――――∞



未来 現在 過去

止まることなく、流れ続ける砂のように




零れ落ちていくその軌跡に




∞―――――――――∞ 星霜  ∞―――――――――∞





・・・3 2 1

『あけまして、おめでとうございます!』


カウントダウンと共に一斉に上がった歓声と祝声に、冬の夜の寒さや静けさといったものが吹き飛ばされていく。
新しい年の幕開け。
その劇的瞬間を共に過ごしたという連帯感の所為か、普段はもっとも静謐な空間であるはずのここ長鳴神社の境内も、この時ばかりは正反対の喧騒に包まれていた。

「今年もよろしくな。」
「こちらこそよろしくお願いします。先輩♪」

0時と共に新年の挨拶を交わした後、楽しくてしょうがないと言った様子ではしゃぐ透流の頭に大きな手が落ちてきた。
落ち着かせるようにその小さな頭をポンポンと叩きながら荒垣が穏やかな笑みを浮かべる。
大好きな手の心地よい感触と見下ろしてくる優しい視線に、荒垣の腕に頬を摺り寄せながら、透流が幸せそうな、嬉しそうな笑顔を浮かべた。
そんな笑顔に幸福を感じながらも、しかし、荒垣はふと小さな違和感を感じて、先日のことを思い出した。


二人で迎える初めての年越し。

『一緒に神社で年越ししませんか?』

そう透流が誘ってきたのはクリスマスの夜だった。

荒垣が銃弾に倒れた去年、共に過ごすことができなかったいわゆる恋人として共有したいと願うであろう数多のイベントに、透流は積極的に荒垣を誘ってきた。
この数年、人との距離を開けていた事もあって、気恥ずかしさがなくはなかったが、それでも去年彼女を一人にさせたことを思えば荒垣としても拒む理由どころかむしろ一緒に過ごしたいという思いは強かった。
ただ、その所為だろうか。二人きりで過ごすことをお互い望むことが多かったのに、この時の彼女は大勢の人が居る神社でと言ったことに多少の違和感を覚えたのだ。
それに、この誘いを口にした時の彼女自身も、普段以上に緊張していたように思えた。
いつだって断るはずなどないのだが、断られる事を心配しているのか、荒垣の様子を伺うようにチラチラと上目使いで見上げてくる透流。
それなのに、この時は始終俯いていたのを覚えている。
人の多い場所を荒垣が嫌って居る事を知っているから、それでなのだろうかとその時は思ったりしたのだが・・・

今日(というか、日付が先ほど変わったので正確には昨日になるが)も透流はよく笑っていた。
そして今も幸せそうな笑顔を荒垣に向けている。
その様子に一度だけ荒垣は目を瞑ると、何事もなかったように再び透流の頭を今度はゆっくりと撫でてやった。



おみくじに一喜一憂してみたり、揃いの新しいお守りを買ってみたり。
縁日のように溢れかえる屋台をひやかしては、夜中だというのにアレもコレもと食べ物の屋台に各駅停車しては暴走しようとする(しかし、何故かたこ焼きの屋台の前でだけは「アレが」とぶつぶつ呟きながら難しい顔をしていたのが別の意味で気になったが)透流をたしなめたりと瞬く間に時は過ぎてゆく。

いつしか、どちらからともなく二人は寮への道を歩き出していた。

「寒くねぇか?」

一歩神社から離れるごとに、それまで二人を包んでいた喧騒と熱気が嘘のように、冬の夜気が辺りに満ちてくる。
手袋に包まれた透流の柔らかく小さな手をそっと握りながら尋ねれば、そんな荒垣のむき出しの手にもう片方のふわりと暖かい手が重ねられた。

「大丈夫ですよ。先輩こそ寒くないですか?」
「こいつがあっから平気だ。あったけぇな。」

首に巻かれた葡萄茶色のマフラーに繋いだのとは逆側の手をやると、荒垣はそこに編みこまれた卵色の細いレールボーダーを撫でた。
それは隣を歩く透流の首に巻かれたものと同じ色であり、そこには葡萄茶色のラインが同じように編みこまれている。
繋いだ手にきゅっと力が込められたのを感じて透流を覗き込めば、寒さにではなく頬を染めている彼女が照れたように荒垣を見上げた。

「幸せです」

そう言ってはにかむように笑う透流に目を細めると、荒垣はその華奢な身体に腕を回し、人気の絶えた夜道で透流を抱きしめた。

「先輩!?」

今は人気がないとはいえ元旦の夜である。
いつ人が来てもおかしくはない往来(といっても住宅地の道の一角だが)での唐突な荒垣の行動に、透流は驚いて声を上げた。
だが、荒垣はその声には応えず、むしろ抱きしめる腕に力を込めると切なげな目を透流に向けた。

「じゃぁ、なんでそんな無理した顔になってんだ?」
「!?」

目を見開いて荒垣を見つめる透流の瞳には、疑問ではなく動揺の色が映りこんでいた。

「そ、そんなこと・は・・!!」

まっすぐに見つめる荒垣の視線に耐えかねたのか、透流が視線をそらしながら口を開いた。
しかし、その言葉は全てを声に乗せる前に止まってしまった。
ハッとした様に動きを止めた透流の視線の先。
そこには細く削り取られた月が冴え冴えと浮かんでいた。


「先輩。私・・・去年と違いますか?」

怜悧な月の光を目の当たりにした透流は、ごまかすことをやめたのか荒垣の腕からするりと抜け出した。
荒垣の前で、くるりと一度回ってみせてから酷くあいまいな問いを荒垣に投げかけた。

「去年と?」
「えっと、じゃぁ2時間前とでもいいです。変わりました?」

透流の問いの真意が分からず、荒垣は首を傾ける。
2時間前といえば、まだ寮に居た時間だ。
髪形が違うとか、服装が違うとか、些細なことは思い当たるが、透流の真剣な眼差しはそういった類の答えを求めているわけではけしてない様に思えた。
むしろ、その答えが先日から感じていた違和感の、笑いながらもどこか無理をしているような、裏を返せば泣きそうに見えた顔の全ての源のような気がしてならなかった。
否、今ここにいたって荒垣はようやくその源の心当たりに思い至っていた。

「望月か?」

問いに対する答えではなかったが、荒垣のひどく静かな声に透流が大きく息を呑む。
ずるい応えですね、そう言って荒垣を捕らえていた視線を再び月へと移して、透流は大きく息を吐きながら話し出した。

「去年の、ううん、もう一昨年になっちゃいましたね。
あの年の大晦日の夜に綾時が言ったんです「良いお年を」って。
年の瀬にはこう言うんだよね?って。

綾時には、もう人としての次の年なんて無かったのに。
笑いながら言ったんです。」

泣きそうな笑顔を浮かべた透流の身体をもう一度抱き寄せながら、荒垣は静かにその言葉に耳を傾けた。
一言も聞き漏らすことの無いように、透流を見つめながら。

「あの12月、私たちは綾時がどこでどんな風にすごしていたか知りません。
彼の告白を聞いて、自分たちのことで一杯一杯で、どんな思いを抱えて一人で時が過ぎるのを待って居たのか、どんな思いで最後の言葉を言ったのか・・・。

綾時は最後まで私たちを大事に思っててくれました。
【死】の宣告者のはずなのに、誰より【人】の命を愛した。
私が彼にその苦しみを与えたから、彼を【人】にしてしまったから。」

ぽろぽろと零れ落ちる涙が月の光を受けて輝いていた。
拭うことも、それ以前に涙を流していることさえ意識していないのかもしれない透流は、滲むはずの視界で月を見上げ続けている。
荒垣は尽きることを知らないように溢れ出す、後悔と言う無限の海からあふれ出した雫を吸い上げ、髪に、額に、頬に、唇を落としていく。
泣きじゃくる子供を母親があやすように、どこまでも優しく愛情深く。

「先輩。
私、あの時から何も変わってない。
綾時があれほど大切にしていた一分一秒を、何万回と繰り返しているのに・・・。」


世界を救ったはずの少女が震えている。
その震えを止めてやりたくて、男はぎゅっと抱きしめる腕に力を込めた。


「過去は、変わらないと思うか?」

話しかけるというよりは、独り言を言うように口を開いた荒垣に透流がピクリと反応する。
最も過去を変えたいであろう男の言葉に自然と視線が降りてきた。

「まぁ、起こっちまった、起こしちまった出来事ってのは変えられねぇな。
それは俺が一番知ってる。
でもな、過去そのものが変わらねぇわけじゃねぇ。
今だって、変わってんだ。変わり続けてんだ。
この一分、この一秒が過ぎていくたびに。」

荒垣は透流の髪をやさしく撫でながら、ゆっくりと言葉をつむぐ。

「俺ぁそれが分かってなかった。だから逃げ出したんだ。
過去を変えることから。
それが償いだと自分勝手な解釈をして。
それであのザマだってんだからしょうもねぇ奴だよな。
でも、今はそれが間違ってたってのがよく分かる。
俺がすべきだったのは、真実を正直に天田に伝えることだった。
仲間たちに、お前に伝えることだった。全てはそっからだったんだ。」

先ほどとは逆に、荒垣の言葉に透流が静かに耳を傾けていた。
無限に湧き出すのではないかと思われた雫は、今はゆっくりと瞳の中を揺らいでいる。

「俺の罪は消えねぇ。
そいつは確かにかわらねぇ。

だが、天田はこんな俺を許すと言った。俺の飯が美味いと言った。

不思議だよな。
未だに俺自身はテメェのことを許すことはできねぇのに、それでも、やっと終わると思ってたあの時よりも今の方が心は軽い。
分かるか?」

荒垣の言葉が、透流の心に静かに反響していた。水に投げ入れられた小石の波紋のように、静かにゆっくりと広がっていく。

「お前は、過去を変えたいか?」

荒垣のまっすぐな瞳と、透流の濡れた瞳が交差する。
こくりと小さな頭が縦に揺れると、パタリと雫が一粒落ちた。

「なら、お前の望むように前を見てろ。
無理に笑うんじゃなく、笑いたいと思ったときに笑え。
泣きたいと思ったら、ここで泣け。
怒りたいと思ったら、ぶつけてくりゃいい。

お前がお前らしくあることが、過去を変えることに、過去を創ることになる。
それは、望んだ現在を、これからの未来を手に入れることと同じだ。それが出来なかった奴らの分までな。」

目じりに残った塩辛い水滴を綺麗にぬぐってやると、華奢な腕が荒垣の背をギュッと掴む。
そうだろ?っと囁くように問いかければ、一度は俯いた小さな頭が勢いよく跳ね上がった。

「はい!」

そこには、新年初のもしかしたら今年一番になるかもしれない笑顔が花開いていた。





∞―――――――――――――――――――――――∞



過去 現在 未来

積み重なった、輝く軌跡




より高く、より美しく、その命の限り




∞―――――――――――――――――――――――∞



その夜、自らの腕の中で穏やかな寝息を立てる透流を見下ろしながら、荒垣はポツリと呟いた。



― 『過去を変える』それを教えてくれたのは、他ならぬお前なんだけどな・・・

精々足掻くさ、この命の限り


なぁ?透流 ―







∞―――――――――――――――――――――――∞
捧げモノシリーズ、一応完結です。
小話のギャグなクリスマスから、シリアスなお正月まで。
少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。
荒ハムに幸多きことを!!
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