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ここは、「Luftleitbahnen」の別館です。
Fan Fiction Novel-二次創作小説-を置いてあります。
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ラムネのSSの処女作がこれです。(汗)
処女作だけあって、私がよく使う言い回しが全部入ってます・・・
その後の駄文と被る所と、思い切り相違してるとこがありますが、
まぁ気にしないで下さい。というかお許しください。
それと、元々オフ用に書いたものなので改行や文体がいつもより長めです。
Web掲載に当たって微妙に手直ししましたが、ほとんど一緒です。

∞―――――――――∞ Identite ∞―――――――――∞



「で?アンタ何怒ってるわけ?」


レスカは目を通していた書類から顔を上げると、応接用のソファに投げやりに身体を預け、無言でグラスを呷っている相棒の方に視線を向けた。

「別に俺様は怒ってなんかいねぇ」

空になったグラスにボトルの中身を空けながら、相棒ことダ・サイダーは憮然とした表情だ。

「そぅ」

再び書類に視線を落としながら、レスカは珍しいこともあるものだと思っていた。

今日は特別な日だったこともあって、城中が朝から上を下への大騒ぎだった。
そのおかげで政務的な事務処理は殆ど無かったのだが、それでもようやくレスカが部屋に戻ってくると「至急」と書かれた書類が数枚机の上に置かれていた。
やれやれと溜め息をつきながらも、仕方なくそれらに目を通し始めて程なくしてからだった。
ノックも無く扉が開いたのは。

どこか不満顔で部屋に入ってきたダ・サイダーは、書類をめくるレスカを一瞥すると、持ってきたボトルを開けて飲み始めた。
いつもなら一人喧しく駄洒落を言い、ドキドキスペースを旅していた頃の話などをしているのだが、今日はそれもなく始終無言だった。

どうやら何かに怒っているらしい。
レスカはそう分析したが、その「何か」に心当たりは無かった。
一瞬「自分」かとも思ったが、思い起こしてみてもダ・サイダーが怒るようなことをした記憶は無いし、何より自分に怒っているのならここには来ないだろう。
そう考えると、やはり物珍しく思えてしょうがなかった。
この誇り高い男が何かに怒りながらも「我慢」しているというこの事象に。


「これで終わりっと」

ようやく最後の書類にサインを終え、レスカはそれらを軽く纏めて机の端に押しやると、未だに不満顔でグラスを傾けているダ・サイダーの方へ向かった。
応接用のテーブルには、すでにレスカの分のグラスが用意されていた。

「やっと一段落って感じね。ほんと、今日は疲れたわ」

向かい側のソファに身体を沈めながらレスカは軽く身体を伸ばす。
ダ・サイダーはそんなレスカを見るともなしに、仏頂面のままレスカのグラスに液体を注いだ。

「で?何が気に入らないのよ」

グラスを受け取りながら、レスカは再び同じ問いを口にした。

「だぁら、俺様は別に何も気に食わなくは無い!」

ダ・サイダーはあらぬ方向を向いたままぶっきらぼうに言い放つ。
しかしその視線だけはレスカをちらちらと見ているのが見て取れた。
溜め息混じりにその様子を見つめながら、レスカはグラスに口をつけた。

どうやら怒っているのではなく、拗ねているのだ。

(相変わらずガキなんだから)

レスカはどうにもこの男は自分の感情というものへの自覚が乏しいと思った。
馬鹿正直で、真っ直ぐ過ぎる思考回路。
そこが良いのだとも思うが、いかんせんこういった状態になると本当に幼い子供に見えてしょうがない。
どうしたものかと考えながら再びグラスに口をつけ、レスカはふと気が付いた。

「あら?珍しいわねコレ。いつものと随分違うじゃない。」

レスカは自分のグラスの中身と机上に置かれたボトルを交互に見つめた。
淡い琥珀色の液体が照明をやわらかく反射している。
ダ・サイダーがいつも持ってくるものはレスカには聊か酒気が強く、いわゆる通好みだった。
しかし今日のそれは柔らかな飲み口で軽い甘口。

「あぁ、たまにはな・・・」

一気にグラスを空にして再びボトルに手を伸ばすダ・サイダー。
だがやはり視線だけはレスカをこそこそと盗み見ていた。

「あんた辛口が好きなんだと思ったけど、甘口もいけるのね」

そんなダ・サイダーの視線には気が付かないふりをして、レスカは今日の出来事を思い出してみることにした。
ダ・サイダーの拗ねている理由がそのどこかにあるのは確かだったからだ。

(ほんと、手がかかるんだから)



生憎の曇天の下、けれど今日のアララ国は熱気と賑わいに満ちていた。
妖神ゴブーリキが、再び勇者達によって滅ぼされてから約半年。
中止続きだった王国主催の公式な「祭典」が執り行われることとなったからだ。

レスカはそんな今朝の出来事をぼんやりと思い出した。

それは準備に忙しく走り回っていた時のことだった。

「だぁ!!だからそれはそっちじゃねぇって言ってんだろうが! てめぇこの俺様の話を聞いてなかった訳じゃねぇだろうな。この勇者である俺様の話を聞いてねぇだなんて、勇者(許さねぇ)ねぇぞ!」
「びぇぇ。ダーリン今日も絶好調じゃん!グレイトじゃん!」
「ぬぁっはっはっは!何せ今日の俺様は一味違うのだ。そしてこれは七味違う!」

そういいながら手に何故か七味唐辛子を握り振り回しているダ・サイダーの姿を見つけ、レスカは足を止めていた。

「流石はダーリンじゃん、うち面白すぎてクラクラじゃん。」

マシンガンを連射してヨイショを続けるヘビメタコもどこかいつもよりノッている。

「ふふん、今日は俺様がゴブーリキを倒した記念すべき祭り。決して準備を怠るんじゃねぇぞ。」

そう言って辺りの侍従に睨みを効かしたかと思うと、ダ・サイダーはふと苦悩するような表情を浮かべる。

「・・あぁ困った。また俺様の虜を増やしてしまう・・・・ふ、罪な男だ俺様は・・・」
「当然じゃん!真理じゃん!ダーリンに勝るものなんてこの世界にいるわけ無いじゃん!」
「そうだろ、そうだろ、さもありなん。世界さえもが俺様の美しさに嫉妬するのもうなず・・・・ぐぇぇ」

あまりの展開の早さ(?)に誰もが生暖かい視線を投げかけていた中、飛んでいったハンマーが見事にダ・サイダーの脳天を直撃していた。
レスカは一瞬の静寂が支配する中、すかさず凛とした声を響かせた。

「さぁ皆さん。まだまだやるべき事は山積みですよ。仕事に戻って頂戴」

等身大はあろうかというハンマーを投げた事など微塵も感じさせない穏やかな笑みを浮かべ、レスカは呆然としている侍従たちにテキパキと指示を与えて作業に戻らせる。
それから辺りに人気がなくなったのを見計らうと、今度は頭を振りながら起き上がったダ・サイダーを睨み付けた。

「アンタねぇ。このくそ忙しい時にいい加減にしなさいよ!時間が無いのよ、時間が。ったくちったぁしっかり自分の仕事こなしなさいよね」
「っ痛てぇなぁ。俺様はしっかりやっとるわい!大体なんで主役の俺様まで働かねばならんのだ。そんなのは納豆要らん(納得いかん)!」

いつのまにか七味唐辛子を納豆に持ち替えているダ・サイダーにレスカは頭が痛くなるのを感じた。
この馬鹿が世界を救った勇者の片割れというのだから世も末だ。
そして思い出したように意地の悪い笑みを浮かべた。

「アンタ何か勘違いしてるんじゃないの?今日の祭典の主役はこのあ・た・し。「奇跡の王女」レスカ様なのよ。アンタなんて所詮刺身のツマよ、大根と一緒。分かる?」
「け、ほざきやがって。第一おまえの場合奇跡っつぅより鬼籍だろぉが」
「そうじゃん、そうじゃん。ブスねーちゃんは鬼婆じゃん」

ダ・サイダーの聞いただけでは分かりかねるネタとそれに瞬時に反応するヘビメタコのタックにはある種の諦め感じつつも、その二人の台詞はすでにボーダーラインを超えていた。

「いっぺん死んでこいや~~~~」

レスカの放った会心の一撃は愚かな主従を壁ごと彼方へと吹き飛ばしていた。


レスカはそんな呆れた事柄を思い出すと、もう何度目かになる溜め息を漏らした。
しかし同時にこれがダ・サイダーの拗ねている原因ではない事も確信していた。
こんなことは日常茶飯事的な事で(情けないことだが)、取り立てて騒ぐような事ではない。

では何が原因だろうか?
次に会った時の事だろうか?

そう考えて更に記憶の糸を辿ってみたのだが、思い起こしてみれば、それからダ・サイダーがこの部屋にくるまでは一度も顔を合わせていないことに気が付いた。

(だめね、あたしには何も心当たりなんてないわ)

レスカはそう思いながら、ふと「あたし」というキーワードに妙な引っかかりを感じた。


今日の祭典のメイン。
それは三姉妹による「祈り」だった。

半年前の戦いで力を使い果たし輝きを失った石版。
その石版に再び闇を払う光を取り戻すために、再度8つの欠片とし世界に還すのだ。
レスカにはわざわざ公式行事としてそれを行うということが煩わしくてしょうがなかった。
しかしヨッコーラ三世の第一王女としての初の公式行事という言葉に頷くしかなかったのだった。

一方国民の反応は想像以上のものだった。
長年行方不明とされていた「カフェオレ姫」が大戦以来、初めて公式の儀式に現れるのだ。
人々の関心はいやがおうにも高まらずにはいられなかった。
何しろゴブーリキを封じるために帰還したとされる王女である。
人々にとってカフェオレが「奇跡の王女」として映るのも無理からぬことだった。

そう、主だった関係者を除けば、誰もゴブーリキに洗脳されていたなどということは知るよしもなかったのだから。


「そろそろお支度の方をお願いいたします」

恭しく頭を下げて控え室を後にする侍女を尻目に、レスカはポツリと呟いていた。

「お支度って言ったってこれ以上どうしろって言うのよ。」

すでに支度は全て侍女たちの手によって完璧に仕上げられていた。
化粧だけは自分でやったものの、衣装も髪も式典用に定められた形に決められていたからだ。
真っ白い薄絹のドレスに必要最低限の装飾品。
それはどう考えても先代三姉妹を意識したものだった。

レスカは今は何の輝きも見せない石版を小突きながら、なんだかなぁと溜め息を漏らした。
すでにミルクとココアは先に式典の場に行っており、自分は最後にこの石版をもって出て行くことになっている。
レスカにはそういった見え透いた演出が、妙に腹立たしくて仕方が無かった。
目立つ事、派手な事は好きだと思う。
だけど何故か今回の事に関しては納得がいかなかった。
多分それは求められているものが「レスカ」ではなく「カフェオレ」だからだったのだろう。
とはいえレスカ自身、「レスカ」と「カフェオレ」の間の違いなど解りはしなかった。
常にそこにいるのは「自分」でしかなかったし、他の者になったつもりもなければ、これからなるつもりもなかった。

求められている「カフェオレ」という人間と、今ここに居る「レスカ」にどれほどの違いがあるのか?
そもそも「自分」ではない「カフェオレ」などいるのか?
それとも「レスカ」という者がはじめから居なかったのか?

茫洋とした思考に収集が付かなくなってくるのが解って、レスカは考えるのを止めた。
こんな事で不機嫌な顔を人前にさらすわけにはいかない。
レスカは一度目を閉じ気持ちを切り替えると、石版を手に控え室を後にした。
その顔に満面の笑みを張り付かせて。






波が拡がる。

自分と言う魂の奥底から。

いや、そうじゃない。

それは魂という扉を通して繋がる深遠、真理。

全ての存在が生まれる場所であり、還りゆく場所からだ。

溢れ出す力の奔流は、まるで一つの生命の如く千変万化を繰り返し、
時に詩となり、時に光となって、旋律の波を世界に拡散する。

その一波一波が自分を通り抜けていく瞬間、 意識は世界と結び付き、そして理解した。


「自分」という存在を。

それは世界の理と変わるところの無いものだ。

無限で唯一。
普遍で不定。

溢れんばかりの意志の集合。

善も悪もなく公平に、ただ公平にありつづけるもの。

繰り返されるのが運命ではなくただの情報の伝達であるように、 そこに感情の入り込む余地はない。


レスカはいつしか微笑んでいた。

たとえこの理解が一瞬の邂逅に過ぎず、 その先には忘却しかないとしても。

今なら全てを容認できると思った。
この世の全てがいとおしいと思った。

それで十分だと解った。


その瞬間一際大きな波が打ち寄せてきて、全てが繋がり、全てが到達した。
眩いばかりの光が弾け八つの軌跡が宙へと消えていった。



レスカが自分の足が地に付いていることを自覚したのは、割れんばかりの大歓声が城下を震撼させたその時だった。






「・・・・悪くねぇよな」

ダ・サイダーの呟きに、レスカははっとして意識を引き戻した。
ダ・サイダーの拗ねている理由を探し出そうと思っていたはずなのに、いつのまにか記憶の旅にはまり込んでいたらしい。
レスカは慌ててそれまでの会話の流れを思い出す。

「そ、そうね、たまにはこういうのも良いわよね」

平静を装いほんのり甘く痺れるような液体を飲み込むと、レスカはふと小首を傾げた。
何故かダ・サイダーが満足そうな顔で自分を見ていたからだ。

「なによ。もう機嫌が直ったわけ?」

レスカは呆れたように言いながら、僅かに残ったグラスの中身をゆっくりと飲み干した。

「何度も言わせんなよ。別に機嫌が悪かったわけじゃねぇって」

さっきとは全く違う表情でそういうダ・サイダーが、レスカには妙に可笑しくて、そして少しばかり腹が立った。
結局何に拗ねていたのかが分からないままだったからだ。

「じゃぁなんで・・・・ま、いいわ。別に」

ここで躍起になるのもなんだか負けたような気がしてつまらない。
それに、機嫌が直ったのならそれでいい。
レスカはそう思うとその手をボトルに伸ばした。

「あら?もうないじゃない。」

ボトルの中身は既に空になっていた。

「あたし一杯しか飲んでないわよ。」

レスカは半ば乱暴にボトルを机に戻してダ・サイダーを睨み付ける。
しかし当のダ・サイダーはどこか自嘲めいた笑みを浮かべると、その手をソファの後ろに回した。

「たまに・・・・だからいいんだよ。いつもこんなんじゃ調子がでねぇ」

そう言ってソファの後ろから取り出してきたのは、いつもの強めのボトルだった。

「ふん、仕方ないから付き合ってあげるわよ」

レスカは口調とは裏腹な笑みを浮かべると、グラスをダ・サイダーの方へと手渡した。


「ねぇ、明日オフなんだけど、買い物付き合ってよね」
「月逢うまでならな」
「面白くないわよ・・・馬鹿」


いつもと同じようで、でもいつもと違う不可思議な夜

(たまにはこういうのもいいわよね・・・

                         そうたまには)


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