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ここは、「Luftleitbahnen」の別館です。
Fan Fiction Novel-二次創作小説-を置いてあります。
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コンセプトは外伝1後のお話。
ダーレスのつもりなんですが、なんでこうなってしまったんだろう?
とりあえずダーに謝っておきましょう。

ごめん!!..。。(ノ>_<)ノ 

∞―――――――――∞ Prism ∞―――――――――∞
 


「そ、そこのお姉さん。僕とお茶でもしませんか?」


あまりに間の抜けた台詞に、レスカは思わず振り向いていた。
一昔前の映画でさえもっと気のきいた台詞を言うと思ったからだ。

案の定、そこにいたのはさえない男。
どう見てもナンパなんてしようとする器には程遠い。

「あ、あの・・・」

耳まで真赤にして、どこかびくついた様子でこちらを見てくるその男にレスカの判断が鈍った。
ただのナンパならいつものように無視をきめこむか、手酷く振ってやればいい・・・
しかしこの男は明らかにナンパを目的にしている様には見えなかった。

(どうしたもんかしらね、ふぅ)

内心思わず溜め息をついたその時レスカの目に映るものがあった。
男の後方数メートルという所、4、5人の集団がこちらを盗み見ながら底意地の悪そうな笑みを浮かべている。

(なるほど・・・・そういうことか。仕方ないわね。)

「いいわ。もちろんおごりよね?」
「え?あ、あの・・・・・」


慌てふためく男の手を無言で引っ張り、レスカは人混みの中を滑るように進んでいった。



-----------


「で?なんの罰ゲームだったわけ?」


喫茶店に落ち着くと、レスカはストローに口をつけながら男を一頻り眺めた。
相変わらずの怯えた目つき、屈強には程遠い体躯、どこかにやけているような引きつった口元。


「え?あ、あの・・・・」

男は俯くと、その後も同じ言葉を繰り返しては口篭もった。


「「え」も「あの」ももう聞き飽きたわ。」

煮え切らない男の態度に、レスカは半ば呆れを通り越してイラついてきていた。
それでも男は同じ言葉を繰り返しては、上目遣いにちらちらとレスカを見るのだ。

「あぁ。もう!あたし、アンタみたいな手合いが一番嫌いだわ。」

我慢の限界に達したレスカは冷たく言い放つと、男に刺すような視線を向けた。

「!!・・・・す、すみません。ぼ、僕は・・・・」

男はレスカの視線に射すくめられると、しどろもどろになりながらもようやく今までの経緯を話し始めた。


顛末は何の事は無かった。
いわゆる「いじめ」の一種で、レスカが内心予想していた通りだった。

あの通りでレスカに声を掛けるものは殆ど居ない。
はじめてこの国に来たものか、余程の大馬鹿者かのどっちかだった。
何故ならそれ以外のものは皆知っているからだ。
レスカがどういった人物であるのか、そしてその相手を。

パッと見たときにこの男は旅行者にも馬鹿にも見えなかった。
だからこそレスカは見捨てられなかったのだ、この男を。


「それでいいわけ?」

レスカは冷めた口調でそう言った。
いじめを良いとは思っていない、だから助けた。
しかしレスカ自身はこういった相手が大嫌いだった。

自分から動かない、動けない輩が。


「でも、僕は・・・力も無いし・・・・」

男はまだ俯いたままだ。

「じゃぁ力があったらどうするわけ?」
「・・・・え?」

男は顔を上げると目を丸くしてレスカを見つめてきた。

「え?じゃないわよ。「力が無いし」ってことは「力があれば」って事と同じでしょ?その力で何が変わるわけ?」
「だ、だって力があれば誰も僕をいじめられないし、何でも出来るじゃないですか!」

男はさも当然といったようにまくし立てた。
レスカにはそれがあまりにも哀れに見えた。
そしてそれがある男に重なって・・・・どこか胸の奥が痛んだ。


「・・・・・・馬鹿ね。」
「は?」
「馬鹿って言ったのよ。」

レスカの口調は冷めたそれから、悲しげなものへと変わっていた。
男は思わず言葉を失った。
レスカの言った言葉の意味も、その表情の意味も理解できなかったからだ。

「力は、ただの物理法則よ。それ以上でもそれ以下でもないわ・・・・そこに意味なんて無い」
「そう・・・・意味なんて無いのよ。」

男のどこか絶望したような顔が見える。
でもそれが事実だ、「力」を信じる事は手に入らないものを欲しがる事と同じ事。

「僕は、でも僕は・・・・・何も・・・」

男のすがるような目がそれでも必死で自分を捕らえている。
レスカはひどくいたたまれなくなって男の言葉を遮った。

「あんたみたいな人、知ってるのよ。力を信じてた男。」

そう、力を唯一のものだと信じていた男。
それがあれば欲しいものが手に入ると思った男。
結局、意味を持たない力は暴走をしただけだった。
行き着く場所が無い力、それはただ虚無へと向かうだけ。

「でも結局自滅したわ。分かる?意味の無い力はその程度なのよ。いいえ、力を持たないより性質が悪いわ。」


あの男の最後と、あいつの呟きがまだ耳の奥底に染み付いている。
力を求めた男の哀れな結末。それを止められなかった者の悲哀。
痛いほどの、切ないほどの囁きを、レスカは決して忘れる事は出来なかった。


「あんたは力で何が変えられるって言うの?今の自分さえ変えられないのに。」

男は再度言葉を失っていた。
レスカの真っ直ぐな目は、男の歪んだ影を見つめていた。
ともすれば自分自身さえ醜くて目をそむけたくなる部分を、嘲るのでも、嫌悪するのでもなくただ真っ直ぐに映している。

男は急に自分が恥ずかしくなった。否、自分の考えが恥ずかしいものだという事に気付いた。

男が口を開きかけた時、突然の声が店中に響いた。


「こんなとこにいやがったのかよ。お前なぁ、どれだけ探したと思ってんだよ?」
「ダ、ダ・サイダー。アンタこそなんでここに?」

レスカの方に真っ直ぐ向かってきたダ・サイダーは、怒りと呆れの入り混じったような表情をしていた。

「お前に急使だってんで探して来いって言われたんだよ。ったく、一人でフラフラ出掛けやがってよ。自分の立場ってのがわかってんのか?ああ?」
「うっさいわねぇ。あたしは今日正式にオフなの!!文句いわれる筋合いは無いわよ!」
「・・・あ、あの。喧嘩はやめて下さい。」

売り言葉に買い言葉、いつものごとく奸悪なムードが二人の間に流れ始める。間に立っている男もなんとか場をなだめようとしてはみるものの、全く持って相手にされなかった。

「あんだと?それがわざわざ探しに来てやった俺様に言う台詞か?大体おまえはいつも・・・」
「・・・・・・なんですってぇ!!」

「そ、その。・・・や、やめましょうよ。」

「そっちこそなんだよ!黙ってきいてりゃ・・・」
「何よ、あたしの所為だって言うわけ?」

「お願いです。やめて下さいよ。」

「当たり前だろうが!だぁぁぁ、もう許さん。ちょっとこっち来い!」
「な、離しなさいよ。あたしはねぇ、まだ・・・・、ちょっ、離してってば!」

「・・・や、やめろーーー!!」


バキ!!


「え?」

レスカは一瞬の出来事が数十秒にも感じられたような気がした。
レスカの手を引っ張り連れ出そうとするダ・サイダーを目の前の男が殴っていたのだ。


「ってぇ・・・てめぇ。いい度胸だな。この俺様に喧嘩売ろうってのかよ!」


ダ・サイダーの押し殺したような怒声がレスカを現実に引き戻した。
肩で息をしている男と、口の端に血を滲ませたダ・サイダーが一触即発のように睨みあっている。

「ちょ、ちょっと、やめなさいよ。」

そう言いながらも、レスカは自分の声が二人の耳には入っていない事が分かっていた。
急いで辺りを見回すレスカの手に触れるものがあった。
レスカは迷わなかった


バシャ


「!」
「!」

二人の男が目を丸くして自分を見たのを確認すると、レスカは手にしたグラスを机に戻し、二人の男の手を引き風のように店を後にした。



-----------


「本当にすみません」

もう何十度目かになる謝罪に、流石のダ・サイダーもうんざり顔だった。
殴られたとは言っても、多少唇が切れた程度で腫れも心配するほどのものではない。

「わぁったって。俺様も熱くなっちまったのが悪いんだしよ。」

この男にしては珍しく引き際がいいかとも思った。
しかし、いかんせんこの路地裏に逃げ込んできたと同時に、土下座せん勢いで謝られ続けていれば毒気も抜けるというものだろう。


「でもさ、あんた自分から動けるじゃない。」

レスカは微笑みながらそう言った。
自分には力が無い、そう言った男がこのダ・サイダーを殴ったのだ。
性格うんぬんは別として、誰もが認める歴戦の勇者である男をだ。

「自信もちなさいよ。あんたきっといい男になるわよ。」

そういって軽く背中を叩いてやったレスカに、男はやっと顔を上げると不器用な微笑を浮かべて見せた。

「ま、曲がりなりにも俺様を殴ったんだからな。・・・忘れんなよ。」

ダ・サイダーはニヤリとした笑みを浮かべると、男に拳を作って見せた。

不意にざわめきが近づいてきた。

「やべ、見つかったか?レスカ、行くぞ」

外野の様子を伺いながらダ・サイダーがレスカに合図を送る。
レスカもまたそんなダ・サイダーに小さく頷く。

「それじゃ、あたし達はもう行くわ。」

様子を見ながら一つ先の路地で待つダ・サイダーを追いかけるように、レスカは男に軽く手を上げ駆け出した。
そんなレスカの背中に男の最後の言葉が届いた。

風に溶け込むその言葉は「ありがとう」その一言だった。



-----------


「あんた・・・・わざと殴られたでしょ?」
「な、なんでわざわざ俺様がそんなことをせねばならん?油断しちまっただけだ。ありえん。絶対ありえん。」

必要以上に否定するダ・サイダーにレスカは吹き出しそうになった。

この男がただ殴られる訳が無い。
そう、それはずっと傍で見てきた自分が一番良く知っている。

(男って本当に不器用よね・・・・・でも)

「!!」


まだ少し鉄錆の味がする。いつもより少し熱くて、違った感触だったけれど、レスカは極上の笑みを浮かべて緑の瞳を見つめて呟いた。


「・・・かっこよかったわよ。」

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