一応お断り。ここで使わせてもらった某ワールドですが。
漫画版のユラユラ銀河帝国から使わせてもらいました。
その時の美味しいシチュエーションに便乗でw
少しは甘いと思ってくださるかしら?汗
漫画版のユラユラ銀河帝国から使わせてもらいました。
その時の美味しいシチュエーションに便乗でw
少しは甘いと思ってくださるかしら?汗
∞―――――――――∞ Voice ∞―――――――――∞
(・・・・なんでいっつもこうなるのよ!?)
喉の奥が溶鉱炉のように熱を帯び、肺が不規則な酸素吸入に悲鳴をあげている。
心臓の早鐘のような鼓動が痛みすら伴いながら胸の奥で疼いている。
もう限界が近い。
レスカはそう自覚していたからこそ、決して立ち止まることが出来なかった。
「休息」というあまりに魅力的な選択肢を選ぶには、ゴールは未だに見えなかったし、何より惰性でかろうじて動いている両足は、一度止まってしまったらもう動きそうには無い。
(まったく!なんだってこういつもいつも面倒ばっか起こすのよ!!)
レスカは必死に荒い息をつきながら、この徒労の原因である前方の影を睨みつけると、もう何度目かになる心の叫びをあげていた。
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ショーウィンドウを覗き込みながら、レスカは大きく溜め息をついた。
綺麗にディスプレイされた宝石たちが、ガラスの内側で閉ざされた世界を形作っている。
その全てが無駄で、全てが合理的な沈黙した世界を眺めながら、
レスカはふと気が付けば結局は一際紅い輝きに釘付けになっている自分に苦笑せずにはいられなかった。
ガラス越しに映った瞳は、その心以上に饒舌に自分を物語っていた。
(なんて顔してるんだか・・・・・ほんと、毎度の事ながら・・・・はぁ)
今回久しぶりに取れたオフということで、レスカはこのドバドバワールドまでダ・サイダーと共に買い物に来ていた。
なんだかんだと仕事上溜まるストレスを発散するには、買い物は手軽だし一番目に見えて楽しいことでもあるからだ。
それに、今回はアララ城下では困るちょっとした理由があったのも事実である。
そういうわけで、アルミホエール号に乗り込み、久々の遠乗りとなったわけなのだが・・・・・
そこはそれ、毎度ながらに始まる喧嘩を止められるものなどいないのもまた常なのであった。
理由は確か・・・・忘れてしまった。
多分つまらない駄洒落だったか、それに類推することだったはずだ。
それでも火種になるには十分過ぎた訳で・・・・・・
結局ドバドバワールドにつくころには、半壊したデッキと元仕置きロボの無残な姿を乗せた鯨が宇宙港の片隅にひっそりと取り残される羽目になったのである。
(折角ヘビメタコが冬眠してるってのに・・・あ~あ)
勢い込んで飛び出してきたレスカは、一人街を歩きながら今更のように溜め息を連発していた。
本当は相談したいことがあったのだが、もうそんなことを言っている状態ではなかった。
意地を張ったらお互い右に出るものはいない。
そんなことは百も二百も承知している者同士である。
「全く損な性分よねぇ・・・・・・今更どうしようもないけど」
ウィンドウに映りこんだ自分の瞳に語りながら、レスカは頭を軽く振ると、吹っ切ることに決めた。
自分でも分かりきっているほどいつものことなのだ、つまりここで落ち込んでしまっていてもどうなるものでもない。
それにどうしても買っておかなければならないものもあるのである。
「・・・よっし!まずはあの店から行こうっと♪」
レスカは一度軽く両手で頬を叩くと、顔を上げて颯爽と歩き出した。
一方、昼なお暗いカウンター・バーに陣取りながら、グラスを傾けていたのはダ・サイダーである。
どこか憮然とした表情で、すでに何杯目かになるグラスを空けていた。
元々ダ・サイダー自身はここに買い物をしに来たわけではない。
あくまでレスカに「頼まれた」から一緒に来たのだ。
それなのに恒例とはいえ、到着前からいつもの喧嘩である。
結局の所一方的にレスカが出て行ってしまうという事態の前に、ダ・サイダー自身は手持ち無沙汰になってしまっていた。
(・・・なんか面白くねぇんだよなぁ。ちっ)
新しいグラスを一気に空けながら、ダ・サイダーは一人ごちた。
理由が何であるとか、どちらが悪いなどと言えるほど次元の高い喧嘩ではない。
そんなどっちつかずの曖昧さが、追いかけたり探したりという行動にプライドという抑制をかけていた。
それだけに向けるべき矛先が分からない(というか分かりたくもないというのが本音だろうが)
言葉にできないもやついた感情が内側でグルグルと渦を巻き蓄積していくのである。
(ぬぁぁ。面白くねぇ!俺様はものすご~く面白くねぇぞぉぉ!!)
何がどうと言うわけではないが、「何か」が秒読み状態に入っているのは確かだった。
そしてそれがこの男の口さえ開かなければ人目を引かずにはいられない事と、開けば開いたで何が起きても不思議ではない事と無関係ではないことを知る者は、不幸にもこの場には居なかったのである。
「♪~♪~」
歩く歩調も軽やかに、レスカは両手に下げた紙袋の重みに満足気な笑みを浮かべた。
予定していた買い物はほぼ終了し、今はもっぱらウィンドゥショッピングを楽しんでいる所である。
そろそろお茶でも飲もうか、それともあの店も覗いて見ようか、そんなことを考え始めた時だった。
その喧騒が耳に入ってきたのは。
「喧嘩だ!!」
「助けてくれ~」
「テロリストよ」
「水持って来い!」
悲鳴や怒号、支離滅裂な叫びなどと共に爆音や銃声が前方の通りを折れた方から響いてくる。
野次馬の群達がまさしく疾走する馬車馬のように通りを駆けて行く。
(・・・痛!ちょ、ぶつかんないでよ!・・・ったく何の騒ぎよ、一体!?)
人波から荷物を守るように道の端に寄りながら、レスカは前方の様子を窺った。
レスカの位置からは死角になって見えなかったが、ガラスの割れる音や悲鳴などの入り混じった騒音が断続的に鼓膜を襲ってくる。
何故かひどく嫌な予感がしたレスカは、騒ぎに背を向けると大事そうに荷物を抱えてそそくさと歩き出していた。
(まったく、この星も物騒になったもんね。こういうのは関わらないに限るわ。ほんと)
人波を避けて数歩歩いたレスカの耳がソレを捉えたのは果たして偶然だったのだろうか。
それとも必然だったのだろうか。
どちらにしろ一つだけ言えた事。
それは無意識だったと言う事だけだった。
気が付けばレスカは既に走り出していた。
両手に抱えていたはずの荷物も忘れて。
その聞き覚えのある声を目指して。
「わっはははははははは!」
響きわたる銃声と悲鳴の中心で、ダ・サイダーは悦に入っていた。
店の中は割れたガラスの破片が絨毯と化し、椅子も机も見れたものではない。
倒れ伏したいかにもゴロツキといった男達や、逃げ惑う女達が爆煙の中にかろうじて見て取れる。
「どうだ!見たかこの俺様の無敵ぶり!!ぬわっはっはっはっはっはっは!!!」
すでに頭の螺子がほとんど逝ってしまったダ・サイダーは、喧嘩を売ってきた男達がもはや動かない事など念頭には無かった。
あるのは破壊がもたらす快感だけで、しかもそれは底を知らない欲望となって更なる快感を求めるのだ。
まるで機械仕掛けの人形のように高笑いしながら破壊活動を続けるダ・サイダーに人々はただ呆然と眺めているしかなかった。
「こんのドアホ!!!!!!!!」
銃声に負けるとも劣らない怒声とスプリンクラーから吹き出した水に騒然としていた店内は一気に静まり返った。
「む?レスカ?」
人工の雨に冷やされた頭を振りながらようやく正気に返ったダ・サイダーは、声の主を振り向くとふと真面目な顔でじっと見つめた。
怒りと呆れの渾然とした表情のレスカに歩み寄りその肩をおもむろに掴む。
「スプリンクラーだけに・・・水を打った静けさ・・・・・・なんてどうだ!面白いだろう!!」
「一偏死んで来い!!!」
再びレスカの投げた羽手裏剣によって落ちてきたシャンデリアがダ・サイダーの頭を直撃したのは、駄洒落を言って1秒も経たないうちだった。
(何考えとんじゃい!この馬鹿タレは!!)
レスカが気を失ったダ・サイダーを引きずってその場を後にしようとした時。
俄かに殺気にも似た感情の波が後方から押し寄せてきた。
「・・・・・・・・えっとぉ」
恐る恐る振り向いたレスカの目に飛び込んできたのは、半眼でこちらを見ている壊れた店の従業員や客そして通行人たちの視線だった。
引きつった唇がまるで笑っているようにも見えて、背筋が凍りつくのが分かる。
泣きたい衝動に駆られたレスカに助け舟を投げかけたのは、やっぱりいつもの声だった。
「逃げるぞ!」
いつのまに気が付いていたのか、言うが早いかダ・サイダーはくるりと踵を返すとレスカの手を引いて走り出していた。
濡れた蒼く長い髪が風に流れ、広い肩が軽く上下に揺れている。
人混みを縫うように走って行く後姿を睨みつけながら、それでもどこか憎めない。
熱い息を吐きながら下がりがちになる視線を上げてレスカがもう一度前を見た時、そこには先ほどまでの影が無くなっていた。
それだけではなく、引かれていたはずの腕からもその感触が消えている。
「・・・・え?・・・う、うそ?」
不意に立ち止まってしまった所為で、今にも崩れ落ちそうになる膝に再び泣きそうになりながら、レスカがなんとかそこまで言葉を搾り出した時。
急に身体が軽くなった。
「そんなちんたら走ってたら追いつかれちまうだろうが」
意地悪そうな笑みでそう言いながら、ヒョイとレスカを抱え上げたダ・サイダーは、そのまま再び人混みの中を風のように走り始めていた。
「・・・・ば、元々あんたの所為でしょうが・・・・」
焼けるような喉の痛みに殆ど声にならない声で囁きながら、レスカはその伝わってくる心地よい振動と風に目を瞑った。
不思議と喧騒はいつのまにか遠のいて、規則的な呼吸の音だけが聞こえていた。
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「もうちっと優しく出来ねぇのかよ!!」
ダ・サイダーの叫びにレスカはしたり顔で更に力を入れた。
「だぁぁ!!」
なんとか追っ手(?)を振り切ってアルミホエール号に辿り付いた二人は、そのままドバドバワールドをトンズラしてきたのだった。
そして今、自己修復の終わっていない元仕置きロボの居ないデッキでダ・サイダーはレスカに手当てをされているのだった。
とはいっても、喧嘩で負傷したわけではない。
自分で壊した店の飛んで来たガラス片や木片でついたかすり傷である。
「自業自得でしょうが。全くもう」
わざときつめに包帯を巻きながら、レスカは始終呆れ顔だった。
一度切れると止まらないダ・サイダーの悪癖には本当に毎回毎回迷惑ばかりである。
「いいかげんにして欲しいわ!あんた本当にそれでも勇者なわけ?」
睨みつけてくるレスカの視線に胸を張りながらダ・サイダーは力強く拳を振り上げた。
「ったりめぇだろうが!!この俺様が勇者で無くしてなんだというのだ!!わっはっは」
(アホもここまでいくと犯罪ね・・・・・・)
包帯を巻き終わったレスカが、気が抜けたように力なく肩を落として溜め息をつく。
「あんたねぇ・・・その切れるとす~ぐ見境がなくなる癖どうにかなんないわけ?まぁどうせ言ったってその足りない脳みそじゃわかりゃしないんだろうけど・・・・」
使い終わった消毒薬や化膿止めを仕舞いながら、うんざりとした表情でダ・サイダーを見つめると、レスカは疲れきった様にしかしさり気なく扱き下ろした台詞を言いながら救急箱を片手に立ち上がった。
再度レスカが溜め息を吐こうとしたその時、不意に肩を抱くように大きな手が回された。
「だからお前が止めてくれるんだろ?」
どこか自慢気にさえ見える笑みを浮かべて、ダ・サイダーの翠の瞳が紅い宝石を覗き込む。
レスカは一瞬目を丸くして見返した後、その肩にかかる心地よい重さと屈託の無い笑顔に思わず目を細めていた。
「甘えてんじゃないわよ・・・・・馬鹿」
ダ・サイダーの額を軽く指で弾きながら呟いたレスカの声は、二人しか居ない艦橋の中で静かな波となって消えた。
(知ってるか?
お前の声だけが俺を止められるんだぜ)
(知ってるわよ。
だからいつでも傍に居なさいよね。
いつでもこの声が届く所に・・・・)