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ここは、「Luftleitbahnen」の別館です。
Fan Fiction Novel-二次創作小説-を置いてあります。
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以前のサイトのキリリクということで書かせてもらいました。
うわぁ・・・・暗い。
カセット文庫3の続きをということだったんですが・・・・
もっとラブ&ピースな作品を期待していたんだと思うんですが、
何故こんなに得体の知れない暗い話になってしまったのか。
ちなみに「Idea」はイデアと読みます

∞―――――――――∞ Idea   ∞―――――――――∞



あたしは誰?


あたしは何?


聖なる三姉妹?


勇者を助ける、ただそれだけの存在?


じゃぁ・・・・あたしがあたしで在る意味はどこにあるの?



ねぇ?・・・・・・あたしのIdeaはどこ?




-----------



潮の匂いを纏ったべた付く風が、街の灯に向かって金の髪を掻き分けて往く。
微かに聞こえる街の喧騒が、潮騒と混じりあいひどく色褪せた印象を心に刻み込む。
日の落ちた埠頭のはずれ、それはどこか時代を遡っているような錯覚を与えるには十分な場所だった。


「いつまでそうしてんのよ?」


レスカは闇に染まった水面を見つめながら、鬱陶しそうに髪を掻き揚げた。
時折、砕ける白波が月光を反射して淡い軌跡を描いていくのが綺麗だ。


「ん~~、ラムネスどもは?」

何故かレスカの足元にぼろ雑巾の様に転がったまま、ダ・サイダーは億劫そうな声を上げた。
刻み込まれた足跡や手形、焼け焦げが、そういったデザインであるかのように妙にはまっている。

「とっくにいったわよ・・・・・ミルクに引きずられて」

レスカの台詞にダ・サイダーは思わずその光景を思い浮かべた。


海風に浸蝕され、赤く錆の浮いたシャッターが長い列を作っている。
倉庫の壁から剥がれ落ちたコンクリート片が取り残された年月の長さを物語っているようでもある。
そんな裏寂れた風景の中、自分同様ぼろ雑巾状態のラムネスが、襟首をつかまれて引きずられていく様が妙に寒気を伴いながらリアルに脳裏に描かれる。
そのままミルクの食い倒れツアーに突入したのか、さらに馬場家でお仕置きタイムの続きになっているのかは分からなかったが、ダ・サイダーは思わず手を合わせたくなった。

(成仏しろよ・・・・・ラムネス)


そんなことを思いながら、ふと見上げたダ・サイダーの目に映りこんできたのは少し震えているレスカの姿だった。
まだ寒くなるには早い季節ではあるが、それでも夜の海は風が冷たい。
ミルク達と一緒に帰るという選択肢もあっただろうに、レスカはずっとここに居ることを選んでいた。

(ったく、素直じゃねぇ奴)

「よっと!・・・・・・・・・帰るか?」

今までの状態が嘘のような身軽さで起き上がると、ダ・サイダーはゆっくりと肩を鳴らしてからレスカに尋ねた。


「・・・・・・帰れば?」

しかし、当のレスカから返ってきた答えは思いのほか気の無い声であり、レスカ自身相変わらず闇に沈む海を眺めたまま微動だにしない。
寒いのかその手で自分を抱きしめたまま、その視線はぼんやりと海を見ているだけだ。

「まだ怒ってんのか?・・・まぁ、その、なんだ。今回は本当に俺様が悪かった」

ばつの悪そうな顔をしながら、珍しく勢いではなく殊勝にも詫びを入れるダ・サイダーだったが、それすら今のレスカの目には入っていないようだった。
どうやらもう怒っているわけではないようだったが、普通でもない。
そんなレスカの様子に、流石のダ・サイダーも戸惑わずにはいられなかった。

「レスカ?」

思わず伸ばした手が、しかしその身体に触れる前にピタリと止まる。
ダ・サイダーは少し考えてから、一歩その足を踏み出すと後ろからレスカを抱きしめた。

「機嫌・・・直せよ。」

想像以上に冷えたレスカの身体に、思わず抱く手に力が入りそうになったその時。


衝撃が襲った。



ドン!!

「気安く触んないでよ!!」


レスカの鋭い声が、波の音さえ遮って埠頭に響き渡る。
振りほどかれた手が、行き場を失ったまま宙を彷徨う。

振り返り怒ったように叫んだレスカのその顔は、今にも泣き出しそうだった。


「あたしは・・・・・・・あたしはあんたのなんなわけ!?」
「お・・おい・・・レスカ!?」

急に何を言い出すのか訳がわからないといった顔のダ・サイダーに、しかし堰を切ったレスカの言葉は止まらなかった。


「笑わせないでよ。あんたに選ばれなきゃ、消えてたですって?何よそれ!!選ばれなきゃ生きてる意味さえないって言うわけ?はん!あたしも随分と都合のいい女になったもんじゃない・・・・・・・ふざけんじゃないわよ!!確かにあたしは聖なる三姉妹で、アンタは勇者かもしれないけど。だからあぁなったってわけ?それで納得しろっての?・・・・・あたしは・・・・あたしはあんたの為にあたしでいるわけじゃない!!」

そこまで一気にまくし立てると、レスカは拳を握り締めたまま俯いて肩を震わせた。
足下のアスファルトは、いくつもの煌きを吸い込みその色を深めていく。



冷たかったのは身体じゃない。
冷たかったのは吹き寄せる風じゃない。
冷たかったのはその存在。
レスカという名の、幻影。



それはたった一日の出来事だったけれど、あまりに長い悪夢だった気がする。
レスカは風に吹かれながら、海を眺めながら、ずっとその事を考えていた。


偽者?

敵対?

虚脱?

失望?

告白?

消失?

日常?


一体何が現実で、何が幻だったのだろう?
もしかしたら、今日一日と言う時間それ自体が在りもしない夢だったのかもしれない。
そんな風にさえ思えてきてしまうような出来事。


初めに有ったのはただの怒りと憤り。
裏三姉妹というわけの分からない存在への。
そしてそれを嬉しそうに見つめるダ・サイダーへの最も純粋な感情。

それが次第に移り変わった。
自分と同じ顔、姿の存在が織り成す行動への不信と疑念。
それを見つめる者への哀しいほど、やるせないほどの絶望。


「ばっかみたい」

あの言葉を言ったとき、レスカはこれ以上は無いほど、もうどうでもよかった。
いつもと変わらない謝罪の言葉、いつもと変わらない果たされぬ誓い。
例え相手が誰だろうと彼らには関係ないのだ。

街で道を聞いた女だろうと、助けを求めるどこぞの姫だろうと、
・・・・・・・それが自分の影であろうと。

そう思ったら、どうでもよくなった。
怒る事も、心にとめることさえ馬鹿らしかった。
なんでもないことなのだ、きっと。
彼らからすれば息を吸うことよりも普通の事で、そこに疑問など皆無なのだ。


絶望はいつしか失望へと変わり、それはその思いの強さ故に切なく、そして苦しかった。


だけど、だけど救われもしたのは確かだ。

言葉がこれほど嬉しいと想った事は無かった。
どんな謝罪や誓いよりも確かなものに聞こえた。

それまでの全てが、確かにあの一瞬消えていた。

「でも、愛してるぜ」

思い出せば、今も心の奥底で火がともるような気がする。
正直、本当はそれだけで十分なはずだった。

そう・・・・十分なはずだったのに・・・




ショコラと名乗ったココアの影の言葉が、耳の奥に張り付いた。

「最後まであたし達を選んでいたら、本物のミルク達は消えていましたのよ」


・・・・それってどういう意味?


レスカの中で何かが引っかかった。
充足した心に、再び何かが淀み始めた。

消えていた?あたしが?・・・・何故?


実際、予感はあった。
髪の色が変わり始めた時、何かがあるのは予想できた。

でも、自分が消える。
その選択肢だけは頭の中から追いやっていた。
それは最も考えたくなかった事だったから、信じたくない事だったから。
それなのに、無慈悲な宣告はいとも簡単に幸福を一蹴した。


あたしって何?

あたしって誰?


同じ疑問が頭に浮かぶ。
ダ・サイダーがあたしを、ラムネスがミルクを選ばなければ・・・・自分の存在は許されない?
それでも、もし消えるのがミルクと自分だけだったのなら、納得はできたのかもしれなかった。
心を寄せた相手への失望が、そういった想いが自分を消そうとしてるのなら、それも有るのかもしれないと思ったから。
でも、そこにはココアも居たのだ。

何故ココアまで消えなければならない?その必要が何処にある?

そう考えると、頭の中に浮かぶのは最も嫌な言葉しか残っていなかった。


聖なる三姉妹・勇者・そして・・・・運命


レスカにはそれが許せなかった。

そんなものが自分を支配している。
そんなものが自分を規定しようとしている。


(冗談じゃない!)

過去も、未来も、伝説も、運命も、そんなものは関係が無い。
そんなものに選ばれたから生きているわけじゃない。
そんなものを信じているから、ここまでこられたわけじゃない。
自分の手で、自分の足で、今この時を勝ち取ってきたのだ。

レスカにはその自負があった。
レスカにはその誇りがあった。
誰より自分の存在意義をIdeaを求めていた。


それなのに・・・・




「あたしは・・・あたしはあんたに選んでもらったわけじゃないわ!」
(運命とか、誰かに決められたからあたしなんじゃない!)

再びレスカは繰り返した。
呆気に取られているダ・サイダーの胸倉を掴み、震える手で何度も何度もその身を揺さぶる。

許せない。
そんな事は許せない。
それでは意味が無いではないか。
何より、そんなものに左右されて決めたわけではないのだ。

この答えだけは。


「あたしがあんたを選んだのよ!!!」
(レスカであるあたしが、ダ・サイダーであるあんたを)




一際強い風に、蒼く長い髪が二人を包み込んだ時。
溜め息をつくようなダ・サイダーの言葉が風に乗って届いた。

「・・・・本当に、お前ほど可愛くねぇ女は見たことねぇよなぁ。」


レスカの涙で滲んだ視界は、この時の苦笑を浮かべつつもどうしようもなく愛しそうにレスカを見下ろすダ・サイダーの顔をまともに映すことが出来なかった。
レスカはその呆れたように聞こえた言葉に、思わずその手を上げていた。


パシ!!


「!」


しかし、その手は後悔という衝撃も、気まずさという痛みも伴う事は無かった。
その左の手の平に伝わってきた感触、それは暖かく優しい柔らかな温もりだった。


ダ・サイダーは難なく振り下ろされた平手を受け止めると、その手の平に唇を寄せた。
ずっと握り締めていた所為だろう、冷たい風の中でそこだけは熱いほどに熱を帯びている。
微かに触れる金属の感触が、先ほどの言葉の意味をより確かなものとする。

(お前わかってんのか?自分の言った事・・・ったく、人にばっか不器用とか言いやがって・・・自分だって相当なもんだって自覚してもいいだろうに。)


まだ涙で目を潤ませたまま、呆然と自分を見上げているレスカに「ふっ」と目を細めると、掴んでいた左手を強引に引き寄せてその耳元に囁いた。

「でもな、お前ほどいい女も見たことねぇよ」

「な・・・あ・・・」

言われた台詞にか、耳にかかる吐息にか、みるみる顔を上気させて口をパクパクさせるレスカに、ダ・サイダーは満足そうに微笑むと抱きしめる手に力をこめる。
一方の手は、耳まで紅く染まり恥ずかしそうに俯こうとするレスカの顎を上向かせる。


「なんだよ、折角珍しく意見があったんだ。何も無しって事はねぇだろ?」

「な、なんのことよ・・・ん・・」

シパシパと瞬きを繰り返し、しどろもどろにもがくレスカの紅い瞳を優しく見つめると、ダ・サイダーはゆっくりとその唇を塞いだ。

(俺様だってお前に選んでもらったからここにいるんじゃねぇぞ。俺様がレスカ、お前を選んだんだからな)




昇ったばかりの月だけが、そんな二人を静かに見つめていた。
夜のベールはまだこの世界を包んだばかりだった。






・・・・・・・・レスカ、お前がお前だから愛してるんだぜ・・・・・・・・



・・・・・・・・あたしが選んだあたしのダ・サイダー
         あんた自身があたしのIdeaなんだね・・・・・・・・・





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