拍手御礼用に書いてた時事ネタギャグ
でも、思ったより長くなったので小話シリーズに入れちゃいました。
(なんかいつもこのパターンだな)
時事ネタ・・・過ぎちゃったけどね!!(笑)
まぁ、ギャグですから笑ってくださいw
でも、思ったより長くなったので小話シリーズに入れちゃいました。
(なんかいつもこのパターンだな)
時事ネタ・・・過ぎちゃったけどね!!(笑)
まぁ、ギャグですから笑ってくださいw
拍手用に書いていた時事ネタだったのですが、
思いのほか長くなったので通常UP
まぁ、ギャグですので・・・
つ っ こ み 禁 止(笑)
設定としては捏造IFの2011年です。
勿論両生存でございます。
(微妙に、シリアス系の稀人設定入ってます)
「だーめーだ!」
組んだ腕に指を打ちつけつつ、荒垣は透流を見下ろした。
その眉間には、皺などと言う可愛いレベルを飛び越えて、深い渓谷が刻みつけられている。
透流は、今にも零れ落ちそうな涙を必死にこらえながら、縋るように荒垣を見上げた。
「お願いです、先輩」
「だから、だめだつってんだろうが!!お前だって分かってるだろ」
もう何度も繰り返している問答に、荒垣の顔は苛立ちと呆れの色を増していく。
無論、荒垣には彼女を泣かせるつもりなど無かった。
しかし、事ここに至っては、たとえ彼女の願いであろうと聞きいれるわけには行かなかった。
そう、その願いだけは・・・・
その日、荒垣は朝から機嫌が良かった。
既に2月も半ばを過ぎ、進路の決まった者たちは、登校日以外、特に通学の義務はない。
荒垣もまた、進むべき道は決しており、今は生活費を稼ぐ為、日々をバイトにあけくれていた。
それと言うのも、去年、巌戸台分寮が取り壊されてから、彼は一人暮らしをしていたからだ。
復学の話があがった当初、彼は頑なにそれを固辞していた。
今更学校に戻った所で、自分の居場所など無いと思っていたからだ。
しかし、美鶴の処刑もとい提案もあり、紆余曲折を経て復学は承知する変わりに、男子寮への入寮は断り、一人暮らしの許可を取りつけたのであった。
それから1年。
裏路地に居た時とは、時間の流れが違うのでは無いかと思えるほど、瞬く間に時は過ぎて行った。
そうして迎えた久々のオフである。
それだけでも十分に喜ぶべき事だったが、それ以上に彼の気をよくしていたのは彼女との時間の共有だった。
新年を向かえてからこっち、ただでさえ登校日も少なくなり、彼女と会える時間は極端に減ってしまった。
しかも、荒垣にも、彼女にもバイトがあり、お互いこれからの進路にとって、それがどれほど大事な事かもよく知っていた。
だからこそ、ゆっくりと二人で過ごす時間は、彼にとっても彼女にとってもかけがえのない大切なものだった。
いつもなら、昼前には訪れるはずの彼女だっが、その日は幾分遅くなっていた。
荒垣は、昼食の仕込みをしていた手をとめると、ふと気になって携帯のメモリを呼び出す。
Callに指をかけたその時、ピンポーンと彼の部屋のベルが鳴った。
遅くなるなら、連絡しとけ。
開口一番、そう言ってやろうとドアを開けたその瞬間、荒垣の目は点になっていた。
彼女が立っていた。
いや、それは何の問題も無い。むしろ心待ちにしていたと言える。(口では言え無いが)
ただ、問題なのは・・・・
にゃ~~~~ん
その腕の中に、想定外のモノが存在していた事だった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
まだ、爽やかと言うには早すぎる風が、沈黙に支配された二人の間を申し分けなさそうに通り過ぎていく。
荒垣は、点になった目をゆっくり線へと変えながら、その焦点を彼女の顔へと持ち上げて行く。
その動線が彼女の瞳で固定されると、彼女はえへへっとちろりと舌を出し、小首をかしげて荒垣を見上げてくるのだった。
仕草だけで言えば、それは非常に可愛らしく、魅力的である。
もし、こういう状況でなかったら、すぐにでもその体躯を絡めとっていただろう。
しかし、荒垣の眼は、彼女の頬を伝うものを、上目遣いに見上げてきてはいるものの、どこか挙動不審に揺れる瞳を見逃さなかった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
再び、二人の間を、すみませんとばかりに冷たい風が吹きぬけていく。
いっそこのままドアを閉めてしまおうか。もう一度開けたら、違う現実が待っていたりはしないだろうか。
ジト目で透流を見下ろしつつ、荒垣はぼんやりとそんな事を考えた。
(う~~ん、なんでこうなっちゃったんだろう)
一方、透流もまた、何故こんな状況に陥ってしまったのかと考え込んでいた。
今日のオフを指折り数えて待っていたのは、透流も同じ。
彼女にとっても、荒垣と会えない時間が増えた事は辛い現実だった。
勿論、透流にだって分かっている。
お互いに進み道があり、その為には学費や生活費が必要な事は。
それでも、去年までは毎日と言うほど顔を見られた、おしゃべりをすることも、声を聞く事も・・・・そして、触れる事も。
それなのに・・・
頭ではいくら理解していても、感情は別物だった。
分かっていても、それが"寂しい"という心を消してくれるわけでは無い。
メールや電話といったツールを使って気を紛らわせて見ても、むしろ心は焦がれるばかりだった。
我が儘・・・だよね・・・
それがどんなに贅沢な想いか知っている。
去年を思えば、自分がどれ程幸せすぎるかと言う事も。
荒垣のアパートへ足早に向かいながら、ずっと透流はそんなことを考えていた。
その時である、その"声"が聞こえたのは
にゃ~~ん
長鳴神社を過ぎた辺りで、猫の鳴き声がした。(ちなみに、現在コロマルは初等科寮が定宿である)
気になって見回して見れば、神社の敷地へと続く植え込みの下に、小さな猫が蹲っている。
怪我でもしているのだろうかと駆け寄ってみれば、ふるふると震えながら、その目を透流へと向けてきた。
綺麗な黄金の輝きが透流をじっと見返してくる。
透流は、大丈夫だよと微笑むと、そっとその手を伸ばし、小さな温もりに触れる。
怪我をしている様子はなかったが、お腹がすいているのかもしれない。
透流がその手に包んでも、嫌がるそぶりどころか、むしろくたりと身体を預けてくる。
透流は、そのまま手の中にその温もりを収めると、近くのコンビニに駆けていった。
にゃ~~ん
ハグハグと猫缶を美味しそうに食べる姿に、透流はくすりと笑みをこぼす。
どうやら、少し元気になったようだ。
ほっとしながら、ゆっくりとその背をなでてやると、顔を一瞬透流に向け、ゴロゴロと喉を鳴らした。
首輪もなく、この辺りでは見かけた事の無い子だったが、その毛並みはビロードのようで、飼い猫だろうかと思う。
身体は小さかったが、どうやら子猫でもないようだった。
ふと、透流の足に柔らかな感触が触れた。
缶詰を食べ終えた小猫が、透流の足に身体を擦り寄せていた。
「お前は人懐っこいね」
その喉を撫でてやれば、嬉しそうに目を細めてくる。
その姿に、以前裏路地でも同じように猫にエサをやった事があった事を透流は思い出した。
あの時は、引掻かれたっけ・・・・
無造作に伸ばした手に、思いきり立てられた鋭い爪。
そんな姿を荒垣に見られた事、寮に帰った後で手当てしてくれた事・・・・。
まだ、荒垣がS.E.E.Sに復帰したばかりの頃だったけれど、その優しさも、不器用さも、その時からずっとずっと変わらない。
懐かしい想い出に、透流の口元に幸せそうな笑みが浮かぶ。
その手がもう一度小さな頭を撫でようとした時、透流の目に細身の腕時計の文字盤が飛び込んできた。
・・・
・・
・
「あ~~~。時間!ジカン!!じか~~~ん!!!・・ごめん。またね!」
いつもなら、もう荒垣の家に着いている時間である。
きゃ~きゃ~と慌てて立ちあがると、透流は空になった缶詰をごみ箱に放り込んで駆けだした。
みゃ~~~~
コンビニの駐車場を突っ切り、角を曲がろうとした時、その鳴き声に振り向いた。
ヨタヨタと小猫が透流の後を追ってきていた。
この辺は決して交通量が少ないわけでは無い。
その姿に透流が戸惑っていると、大型ダンプカーが駐車場へと入ってくる所だった。
透流は再び駆けだしていた・・・・小猫の元へと。
小さな温もりを抱いたまま、透流は仏頂面で見下ろしている荒垣を盗み見た。
悪戯っ子のように笑って見たが、どうやら無駄だったようだ。
ここがペット禁止なのは、透流も重々承知している。
元来、動物好きな荒垣である。許可がある場所でありさえすれば、きっと違った結果だったろう。
というより、それなら既にコロマルはここに居ただろう。
今だって、近所の犬や猫に彼がエサをやっていることを知っている。
しかも、ついてこないようにわざわざ公園まで足を運んでだ。
それを思えば、自分がしている事がどういう事なのか、透流にも一応分かってはいた。
にぅ
透流の腕の中で、小猫が僅かに身じろぎすると、その黄金の瞳で荒垣と透流を交互に見つめて小さく鳴いた。
その姿に、透流も実際どうすればいいのか迷っていた。
別に飼って欲しいと思ったわけではない、でも、捨てても置けなかったのだ。
自身でさえ明快な答えを持たないまま、それでも透流は思っていた・・・なんとかこの場を乗り切らねばと。
どれくらいそうしていただろう。
初めのうちこそ自分を見上げてきていた透流だったが、それが駄目だと分かると、今度は無言のままそっと進入を試みてきた。
荒垣とドアの合間を縫って、何もいないですよと言わんばかりに身体を滑り込ませようとする。
(まったくこいつは・・・)
荒垣は嘆息すると、すり抜けようとする彼女の前に腕を伸ばし、そのままドア枠を掴んで進入路を塞いでやる。
「どちらへ?お嬢様」
うっとばかりに呻く透流に、荒垣はさらに低い声音を向ける。
「何か言うことあるんじゃねえか?」
懇願するような目で見上げてくる透流を、荒垣の冷静な眼が見下ろす。
「あの・・」
「だめだ」
「せんぱ・・」
「諦めろ」
彼女の唇が小さく動けば、みなまで言わせず荒垣は首を横に振る。
何か言えって言ったの先輩なのにと彼女が唸りながら見上げて来る。
次第に涙がじわじわと滲んでくる瞳に葛藤を覚えながら、それでも荒垣は引けなかった。
そもそも、無理を言っているのは彼女であって、道理は荒垣にあるのである。
ここで折れるわけにはいかなかった。
「元いた場所に戻して来い」
「見捨てるんですか!?先輩」
この数分だけで、一年分のため息をついた気がする。
そう思いながら、さらにため息を重ねながら荒垣が言えば、透流がひどいとばかりに食ってかかる。
「野良はそんなにやわじゃねえよ。てか、そいつ飼い猫じゃねえのか?毛並みいいし」
「だからって、置き去りになんて出来ませんよ・・・こんなに小さいのに」
同意を求めるように小猫を覗き込むと、金の輝きが軽やかに瞬く。
にゃ~と言う鈴のような声が小さく響く。
荒垣とて、本音で言えばこんな小猫を見捨てたくなど無い。
しかし、ルールはルールだ。ここは巌戸台分寮ではないのだから。
「だめだ。何度も言わすな」
「捨てちゃイヤです」
にゃ~~
彼女の声に猫の声が重なる。
その瞬間、荒垣の脳裏に何故か「拾ってください」と書かれたダンボール箱に入り、
うるうると瞳を潤ませて見上げてくる"猫耳のついた"透流の姿がよぎった。
「な”」
「?・・・先輩?」
突然目を見開いた荒垣に、透流が驚いたように目を白黒させている。
それを視界に入れながら、荒垣は頭を振った。
妙にリアルなソレが頭から放れない。むしろ・・・
「捨てニャいで~」とふるふると身体を震わせて訴えてくる"猫耳"透流の姿が目に浮かぶ。
欲求不満が無かったとは言わない。
正直、欲求もあるし、ここの所会えなかった分不満も募ってはいる。
だが、こんな白昼夢を見るほど自分が飢えているとは思いたく無い。
というか・・・・信じたくない。
混乱でワケが分からなくなって来た所に、柔らかな感触が足元を襲った。
小猫が荒垣の足に擦り寄ってきたのだ。
その姿を見下ろした瞬間、その小さな猫が透流になり、荒垣に身体を摺り寄せて「にゃ~」と笑った。
ゴス!!
透流はカバンを漁っていた手を止めると、荒垣を見つめて目を皿のように丸めた。
急に混乱状態になった荒垣に、ここはパトラかなぁと思い、猫を下ろして召喚機を探していたのだ。
しかし・・・・手遅れだったかもしれない。
目の前では、荒垣が玄関の壁にゴッドヘッドをかましていた。
衝突点からはシューシューと煙が出て居たりする。
「あの・・・先輩・・・大丈夫ですか?」
「・・・・わかった」
「はい?」
こちらは全くわかりませんと噛みあわない会話に、透流は目を皿にしたまま首をかしげる。
「・・・飼い主が見つかるまでだからな」
何故か燃え尽きたような声で荒垣が言った台詞に、透流はそれでも首を傾けたまま。
すぐには意味が分からなかったのだ。
だが、次の瞬間には透流は荒垣に抱きついていた。その顔に満面の笑みを浮かべて。
「先輩!!」
ぎゅ~っと抱きしめれば、自己パトラが効いたのか、いつもの荒垣がやれやれといった顔で頭を撫でてくれる。
「・・・我が儘の分は後でしっかり返してもらうからな」
少し意地悪そうな荒垣の囁きが、透流の耳をくすぐっていく。
笑って見上げた透流の答えは、声になる前に止められていた。
少し温かくなった昼の風が、玄関の隙間から二人を包んで流れていく。
そんな二人の重なった影を、黄金の輝きがただ穏やかに見上げていた。
余談
荒垣が見下ろせば、透流がペンを握ったまま眠り込んでいた。
どうやら、飼い主探しのポスターを描きながら、そのまま眠ってしまったようだ。
広げられたレポート用紙には、可愛らしい猫の絵と大きく着色された文字が躍っている。
ふっとその目を細めると、荒垣はそっとタオルケットをかけてやった。
にぅ
彼女の傍らで、丸くなって一緒に眠っていた小猫が小さく声を上げる。
ふわりと揺れた長い尻尾が、一瞬二つに重なって・・・・・・見えた気がした。
「さぁて、夕飯の仕込みでもすっか」
それは穏やかなある日のお話。
さらに余談
それから一週間と経たない内、ペット解禁の回覧版が荒垣のアパートを巡ることとなるのだった。
∞――――――――――――――――――――――――∞
猫の日ネタ・・・過ぎてますね。はい。
まぁ、キニシナイ。キニシナイ。
思いのほか長くなったので通常UP
まぁ、ギャグですので・・・
つ っ こ み 禁 止(笑)
設定としては捏造IFの2011年です。
勿論両生存でございます。
(微妙に、シリアス系の稀人設定入ってます)
∞―――――――――∞ 小話 弐 (Zwei Kubikzahl) ∞―――――――――∞
「だーめーだ!」
組んだ腕に指を打ちつけつつ、荒垣は透流を見下ろした。
その眉間には、皺などと言う可愛いレベルを飛び越えて、深い渓谷が刻みつけられている。
透流は、今にも零れ落ちそうな涙を必死にこらえながら、縋るように荒垣を見上げた。
「お願いです、先輩」
「だから、だめだつってんだろうが!!お前だって分かってるだろ」
もう何度も繰り返している問答に、荒垣の顔は苛立ちと呆れの色を増していく。
無論、荒垣には彼女を泣かせるつもりなど無かった。
しかし、事ここに至っては、たとえ彼女の願いであろうと聞きいれるわけには行かなかった。
そう、その願いだけは・・・・
その日、荒垣は朝から機嫌が良かった。
既に2月も半ばを過ぎ、進路の決まった者たちは、登校日以外、特に通学の義務はない。
荒垣もまた、進むべき道は決しており、今は生活費を稼ぐ為、日々をバイトにあけくれていた。
それと言うのも、去年、巌戸台分寮が取り壊されてから、彼は一人暮らしをしていたからだ。
復学の話があがった当初、彼は頑なにそれを固辞していた。
今更学校に戻った所で、自分の居場所など無いと思っていたからだ。
しかし、美鶴の処刑もとい提案もあり、紆余曲折を経て復学は承知する変わりに、男子寮への入寮は断り、一人暮らしの許可を取りつけたのであった。
それから1年。
裏路地に居た時とは、時間の流れが違うのでは無いかと思えるほど、瞬く間に時は過ぎて行った。
そうして迎えた久々のオフである。
それだけでも十分に喜ぶべき事だったが、それ以上に彼の気をよくしていたのは彼女との時間の共有だった。
新年を向かえてからこっち、ただでさえ登校日も少なくなり、彼女と会える時間は極端に減ってしまった。
しかも、荒垣にも、彼女にもバイトがあり、お互いこれからの進路にとって、それがどれほど大事な事かもよく知っていた。
だからこそ、ゆっくりと二人で過ごす時間は、彼にとっても彼女にとってもかけがえのない大切なものだった。
いつもなら、昼前には訪れるはずの彼女だっが、その日は幾分遅くなっていた。
荒垣は、昼食の仕込みをしていた手をとめると、ふと気になって携帯のメモリを呼び出す。
Callに指をかけたその時、ピンポーンと彼の部屋のベルが鳴った。
遅くなるなら、連絡しとけ。
開口一番、そう言ってやろうとドアを開けたその瞬間、荒垣の目は点になっていた。
彼女が立っていた。
いや、それは何の問題も無い。むしろ心待ちにしていたと言える。(口では言え無いが)
ただ、問題なのは・・・・
にゃ~~~~ん
その腕の中に、想定外のモノが存在していた事だった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
まだ、爽やかと言うには早すぎる風が、沈黙に支配された二人の間を申し分けなさそうに通り過ぎていく。
荒垣は、点になった目をゆっくり線へと変えながら、その焦点を彼女の顔へと持ち上げて行く。
その動線が彼女の瞳で固定されると、彼女はえへへっとちろりと舌を出し、小首をかしげて荒垣を見上げてくるのだった。
仕草だけで言えば、それは非常に可愛らしく、魅力的である。
もし、こういう状況でなかったら、すぐにでもその体躯を絡めとっていただろう。
しかし、荒垣の眼は、彼女の頬を伝うものを、上目遣いに見上げてきてはいるものの、どこか挙動不審に揺れる瞳を見逃さなかった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
再び、二人の間を、すみませんとばかりに冷たい風が吹きぬけていく。
いっそこのままドアを閉めてしまおうか。もう一度開けたら、違う現実が待っていたりはしないだろうか。
ジト目で透流を見下ろしつつ、荒垣はぼんやりとそんな事を考えた。
(う~~ん、なんでこうなっちゃったんだろう)
一方、透流もまた、何故こんな状況に陥ってしまったのかと考え込んでいた。
今日のオフを指折り数えて待っていたのは、透流も同じ。
彼女にとっても、荒垣と会えない時間が増えた事は辛い現実だった。
勿論、透流にだって分かっている。
お互いに進み道があり、その為には学費や生活費が必要な事は。
それでも、去年までは毎日と言うほど顔を見られた、おしゃべりをすることも、声を聞く事も・・・・そして、触れる事も。
それなのに・・・
頭ではいくら理解していても、感情は別物だった。
分かっていても、それが"寂しい"という心を消してくれるわけでは無い。
メールや電話といったツールを使って気を紛らわせて見ても、むしろ心は焦がれるばかりだった。
我が儘・・・だよね・・・
それがどんなに贅沢な想いか知っている。
去年を思えば、自分がどれ程幸せすぎるかと言う事も。
荒垣のアパートへ足早に向かいながら、ずっと透流はそんなことを考えていた。
その時である、その"声"が聞こえたのは
にゃ~~ん
長鳴神社を過ぎた辺りで、猫の鳴き声がした。(ちなみに、現在コロマルは初等科寮が定宿である)
気になって見回して見れば、神社の敷地へと続く植え込みの下に、小さな猫が蹲っている。
怪我でもしているのだろうかと駆け寄ってみれば、ふるふると震えながら、その目を透流へと向けてきた。
綺麗な黄金の輝きが透流をじっと見返してくる。
透流は、大丈夫だよと微笑むと、そっとその手を伸ばし、小さな温もりに触れる。
怪我をしている様子はなかったが、お腹がすいているのかもしれない。
透流がその手に包んでも、嫌がるそぶりどころか、むしろくたりと身体を預けてくる。
透流は、そのまま手の中にその温もりを収めると、近くのコンビニに駆けていった。
にゃ~~ん
ハグハグと猫缶を美味しそうに食べる姿に、透流はくすりと笑みをこぼす。
どうやら、少し元気になったようだ。
ほっとしながら、ゆっくりとその背をなでてやると、顔を一瞬透流に向け、ゴロゴロと喉を鳴らした。
首輪もなく、この辺りでは見かけた事の無い子だったが、その毛並みはビロードのようで、飼い猫だろうかと思う。
身体は小さかったが、どうやら子猫でもないようだった。
ふと、透流の足に柔らかな感触が触れた。
缶詰を食べ終えた小猫が、透流の足に身体を擦り寄せていた。
「お前は人懐っこいね」
その喉を撫でてやれば、嬉しそうに目を細めてくる。
その姿に、以前裏路地でも同じように猫にエサをやった事があった事を透流は思い出した。
あの時は、引掻かれたっけ・・・・
無造作に伸ばした手に、思いきり立てられた鋭い爪。
そんな姿を荒垣に見られた事、寮に帰った後で手当てしてくれた事・・・・。
まだ、荒垣がS.E.E.Sに復帰したばかりの頃だったけれど、その優しさも、不器用さも、その時からずっとずっと変わらない。
懐かしい想い出に、透流の口元に幸せそうな笑みが浮かぶ。
その手がもう一度小さな頭を撫でようとした時、透流の目に細身の腕時計の文字盤が飛び込んできた。
・・・
・・
・
「あ~~~。時間!ジカン!!じか~~~ん!!!・・ごめん。またね!」
いつもなら、もう荒垣の家に着いている時間である。
きゃ~きゃ~と慌てて立ちあがると、透流は空になった缶詰をごみ箱に放り込んで駆けだした。
みゃ~~~~
コンビニの駐車場を突っ切り、角を曲がろうとした時、その鳴き声に振り向いた。
ヨタヨタと小猫が透流の後を追ってきていた。
この辺は決して交通量が少ないわけでは無い。
その姿に透流が戸惑っていると、大型ダンプカーが駐車場へと入ってくる所だった。
透流は再び駆けだしていた・・・・小猫の元へと。
小さな温もりを抱いたまま、透流は仏頂面で見下ろしている荒垣を盗み見た。
悪戯っ子のように笑って見たが、どうやら無駄だったようだ。
ここがペット禁止なのは、透流も重々承知している。
元来、動物好きな荒垣である。許可がある場所でありさえすれば、きっと違った結果だったろう。
というより、それなら既にコロマルはここに居ただろう。
今だって、近所の犬や猫に彼がエサをやっていることを知っている。
しかも、ついてこないようにわざわざ公園まで足を運んでだ。
それを思えば、自分がしている事がどういう事なのか、透流にも一応分かってはいた。
にぅ
透流の腕の中で、小猫が僅かに身じろぎすると、その黄金の瞳で荒垣と透流を交互に見つめて小さく鳴いた。
その姿に、透流も実際どうすればいいのか迷っていた。
別に飼って欲しいと思ったわけではない、でも、捨てても置けなかったのだ。
自身でさえ明快な答えを持たないまま、それでも透流は思っていた・・・なんとかこの場を乗り切らねばと。
どれくらいそうしていただろう。
初めのうちこそ自分を見上げてきていた透流だったが、それが駄目だと分かると、今度は無言のままそっと進入を試みてきた。
荒垣とドアの合間を縫って、何もいないですよと言わんばかりに身体を滑り込ませようとする。
(まったくこいつは・・・)
荒垣は嘆息すると、すり抜けようとする彼女の前に腕を伸ばし、そのままドア枠を掴んで進入路を塞いでやる。
「どちらへ?お嬢様」
うっとばかりに呻く透流に、荒垣はさらに低い声音を向ける。
「何か言うことあるんじゃねえか?」
懇願するような目で見上げてくる透流を、荒垣の冷静な眼が見下ろす。
「あの・・」
「だめだ」
「せんぱ・・」
「諦めろ」
彼女の唇が小さく動けば、みなまで言わせず荒垣は首を横に振る。
何か言えって言ったの先輩なのにと彼女が唸りながら見上げて来る。
次第に涙がじわじわと滲んでくる瞳に葛藤を覚えながら、それでも荒垣は引けなかった。
そもそも、無理を言っているのは彼女であって、道理は荒垣にあるのである。
ここで折れるわけにはいかなかった。
「元いた場所に戻して来い」
「見捨てるんですか!?先輩」
この数分だけで、一年分のため息をついた気がする。
そう思いながら、さらにため息を重ねながら荒垣が言えば、透流がひどいとばかりに食ってかかる。
「野良はそんなにやわじゃねえよ。てか、そいつ飼い猫じゃねえのか?毛並みいいし」
「だからって、置き去りになんて出来ませんよ・・・こんなに小さいのに」
同意を求めるように小猫を覗き込むと、金の輝きが軽やかに瞬く。
にゃ~と言う鈴のような声が小さく響く。
荒垣とて、本音で言えばこんな小猫を見捨てたくなど無い。
しかし、ルールはルールだ。ここは巌戸台分寮ではないのだから。
「だめだ。何度も言わすな」
「捨てちゃイヤです」
にゃ~~
彼女の声に猫の声が重なる。
その瞬間、荒垣の脳裏に何故か「拾ってください」と書かれたダンボール箱に入り、
うるうると瞳を潤ませて見上げてくる"猫耳のついた"透流の姿がよぎった。
「な”」
「?・・・先輩?」
突然目を見開いた荒垣に、透流が驚いたように目を白黒させている。
それを視界に入れながら、荒垣は頭を振った。
妙にリアルなソレが頭から放れない。むしろ・・・
「捨てニャいで~」とふるふると身体を震わせて訴えてくる"猫耳"透流の姿が目に浮かぶ。
欲求不満が無かったとは言わない。
正直、欲求もあるし、ここの所会えなかった分不満も募ってはいる。
だが、こんな白昼夢を見るほど自分が飢えているとは思いたく無い。
というか・・・・信じたくない。
混乱でワケが分からなくなって来た所に、柔らかな感触が足元を襲った。
小猫が荒垣の足に擦り寄ってきたのだ。
その姿を見下ろした瞬間、その小さな猫が透流になり、荒垣に身体を摺り寄せて「にゃ~」と笑った。
ゴス!!
透流はカバンを漁っていた手を止めると、荒垣を見つめて目を皿のように丸めた。
急に混乱状態になった荒垣に、ここはパトラかなぁと思い、猫を下ろして召喚機を探していたのだ。
しかし・・・・手遅れだったかもしれない。
目の前では、荒垣が玄関の壁にゴッドヘッドをかましていた。
衝突点からはシューシューと煙が出て居たりする。
「あの・・・先輩・・・大丈夫ですか?」
「・・・・わかった」
「はい?」
こちらは全くわかりませんと噛みあわない会話に、透流は目を皿にしたまま首をかしげる。
「・・・飼い主が見つかるまでだからな」
何故か燃え尽きたような声で荒垣が言った台詞に、透流はそれでも首を傾けたまま。
すぐには意味が分からなかったのだ。
だが、次の瞬間には透流は荒垣に抱きついていた。その顔に満面の笑みを浮かべて。
「先輩!!」
ぎゅ~っと抱きしめれば、自己パトラが効いたのか、いつもの荒垣がやれやれといった顔で頭を撫でてくれる。
「・・・我が儘の分は後でしっかり返してもらうからな」
少し意地悪そうな荒垣の囁きが、透流の耳をくすぐっていく。
笑って見上げた透流の答えは、声になる前に止められていた。
少し温かくなった昼の風が、玄関の隙間から二人を包んで流れていく。
そんな二人の重なった影を、黄金の輝きがただ穏やかに見上げていた。
余談
荒垣が見下ろせば、透流がペンを握ったまま眠り込んでいた。
どうやら、飼い主探しのポスターを描きながら、そのまま眠ってしまったようだ。
広げられたレポート用紙には、可愛らしい猫の絵と大きく着色された文字が躍っている。
ふっとその目を細めると、荒垣はそっとタオルケットをかけてやった。
にぅ
彼女の傍らで、丸くなって一緒に眠っていた小猫が小さく声を上げる。
ふわりと揺れた長い尻尾が、一瞬二つに重なって・・・・・・見えた気がした。
「さぁて、夕飯の仕込みでもすっか」
それは穏やかなある日のお話。
さらに余談
それから一週間と経たない内、ペット解禁の回覧版が荒垣のアパートを巡ることとなるのだった。
∞――――――――――――――――――――――――∞
猫の日ネタ・・・過ぎてますね。はい。
まぁ、キニシナイ。キニシナイ。