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ここは、「Luftleitbahnen」の別館です。
Fan Fiction Novel-二次創作小説-を置いてあります。
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夢現、朧月の後話。の、つもり。
さらっと甘いの書きたいなぁなはずだったのに、
出来上がったら全然違うものに(汗)

辻褄は合わせたつもりだけど、あってなかったらご容赦ください。
てか、今度ちゃんと全部見なおさねば。



∞――――――――――――――――――――――――∞



たとえそれが、形の無い想いでも


たとえそれが、目に見えない温もりでも



それは確かに、今、ここに・・・




∞―――――――――∞ 雨弓  ∞―――――――――∞



荒垣の耳に、騒々しい足音が聞こえてきたのは、9月19日の午後だった。
寮の入り口、大扉脇のカウンターの中から空を見上げていると、岳羽がバタバタと階段を走り降りてきたのだ。

彼女は、そのままラウンジとダイニングを無言で見回すと、キッチンへと駆け込んで行く。

「・・・なんかしたんすかね?」
「さぁな」

病院から戻ってきていた順平が、ソファで広げていた雑誌から顔を上げると、首を捻りながら荒垣を見る。
荒垣は興味ないと言った風情で答えると、再び空を見上げた。
昼過ぎまで続いた激しい雨風が嘘のように、青く澄み渡った台風一過の空が広がっている。


バン!!

キッチンの扉を乱暴に開けながら、岳羽が大股でラウンジへとやってきた。
その手には、何故かプリンのカップが握られている。

「順平!あんた透流見なかった?」

何かどす黒いモノを滲ませながら、岳羽の低い声音がラウンジを震わせる。
その姿に圧倒されたように、頬からたらりと冷や汗を流した順平が岳羽を仰ぎ見た。

「い、いや・・み、見てないっす・・・ってか、ゆかりっち・・・・こえぇ」
「あ、そう・・・・・・・透流ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

ダン!!

怯えた順平の前に、岳羽がプリンのカップを置いた。実際の所は、プリンのカップで机を叩いた様にしか見えなかったが・・・

「これ、食べちゃって・・・」
「え・・・?でも、確かこれ透流っちの・・・」

「いいから食え!!!」

岳羽の勢いに押され、順平が恐る恐るとカップに手を伸ばす。
その光景を見ながら、荒垣はやれやれと息をつく。なんとなく事の次第の想像がついたのだ。

「どした?」
「荒垣先輩・・・・。順平が見て無いんですから、先輩も見て無いですよね?透流」

一応、確認の為に声をかければ、心なしかドス黒いモノを引っ込めながら、岳羽が逆に問いを問いで返してきた。

「見てねぇな。てか、寝てるんじゃなかったのか?」
「それが・・・部屋に居なくって・・・。ったくあの子は!!」

内心、思った通りかと荒垣は嘆息した。
昼過ぎ頃、熱が下がったと岳羽と山岸、アイギスの3人がラウンジで喋っていたのを思い出す。
夕飯は自分が作るのだと、山岸が張りきってアイギスと買い出しに行ったのはつい先程だ。

「ちょっと外探してきます!・・・もし見つけたら、部屋戻るように言って!!いいわね、順平!!先輩もお願い・ま・・・・」

最後まで言い切る前に、岳羽の姿は既に大扉の外へと消えていった。

「ありゃ、相当怒ってんな・・・・透流っち・・・南無」

透流の物だったであろうプリンを頬張る順平を尻目に、荒垣は階段へと足を向けた。

「荒垣サン。探しに行かないっスか?」
「・・・・・」

問いかける順平の声に、荒垣は手を上げると無言で階段を上がった。













ギィィ


錆び付いた扉が、小さな抗議の声を立てる。
それを無視して、視線を前へと投げかければ、そこには予想通りの姿があった。

「やっぱ、ここにいやがったか」
「先輩?」

手摺りに寄りかかり、遠くを見つめていた透流が、荒垣の声に振り返った。
どうかしました?と疑問符をつけた頭が、軽くかしげられている。
その姿に、荒垣はふっと口元を僅かに緩ませた。
昨夜の姿とは違い、いつも通りの透流の姿に我知らず安堵したのだ。

「岳羽が探してたぞ。っつうか、病み上がりが何してやがる」

咎める様に睨みつけたからか、"岳羽"という言葉にか、透流の頬が僅かに引きつる。

「えっと・・・だってもっとよく見たかったんですもん」
「あ?何をだ。それよりも、ちゃんと休む時休まねぇと・・・」
「先輩!!虹です!!!」

いつもなら、荒垣の視線と声音にうな垂れる透流だったが、その時の透流は違っていた。
荒垣の心配と呆れの混じった言葉を遮ると、鉄柵を掴んでいた片手を大きく伸ばし、前方の空を指し示した。
呆気に取られて促されるままに視線を移せば、そこには確かに美しい放物線を描いた7色の軌跡。
雲ひとつ無い青空を横切り、街から生まれ街へと還る架け橋の姿がソコにはあった。

荒垣は一瞬その光景に目を奪われてしまう。
そして、次の瞬間にはそんな自分にハッとした。

(俺が・・・見とれた・・・?)

虹などと言うものを見たのがどれ位ぶりかなんて、覚えても居ない。
むしろ、今まで虹なんてものを意識した事などなかった。
そんな自分が、一瞬とは言え見入ってしまったのだ。
荒垣は、ひどく混乱した。
ここまで自分の心情が変化してきている事に、彼自身気づいて居なかったのだ。

(・・・こいつの・・・所為か?)

落とした視線の先では、未だに宝物を見つけた子供の様に透流が空を見入っている。
その生き生きとした表情が、荒垣の心を苛んだ。



ここに戻ってきたのは、全てにケリをつける為でしかなかった。
それ以外、荒垣にすべき事、いや、許された事など何もなかった。
生きる事も、死ぬ事も、自ら選ぶ権利などない。荒垣自身、そう思っていた。
ただ断罪の時を待ち、いつでもこの命を差し出せるように・・・それだけを自分に課して。

それなのに、迷いも、未練も捨てて戻ってきたはずなのに、むしろここに来て、その全てが自分の中に生まれてしまった。
そして、そのきっかけを作ったのが、今、目の前に居るたった一人の"女"なのだと思うとたまらなかった。

本当は誰とも馴れ合わず、ただひっそりと独りでケジメをつけるだけ、そのはずだったのだ。
馴れ合ってしまえば、その時が来た時、荒垣の意図とは関係なく悲しむ者が出るだろう。
それは荒垣の本意ではなかった。
だからこそ、真田と桐条とも今まで以上に距離を置いた。
新しいメンバーだと言う2年生たちとも、特に話をする事もなかった。
向こうも、荒垣自身に萎縮しているのか近付いてはこなかった。
全て、それでいいと思っていた。
それなのに・・・・・



「ね?綺麗でしょう!!先輩」

透流が、無邪気な笑顔を浮かべて荒垣を振り返った。
その目があまりに真っ直ぐで、荒垣は視線に耐え切れず自らも柵に身体を預け遠くを見やる。

(そんな目で・・・見るな・・・)

裏路地で見た時から、透流はそうだった。
溜まり場の連中でさえ、荒垣に対しては一線を引いていた。それなのに、透流はものおじするどころか、ずかずかと近寄ってくるのだ。
それは、まだ恐れを知らない子供に似ているのかもしれない。だが、荒垣は彼女がただの子供ではないことを既に知ってしまっている。
身の内に抱え込んでいる孤独、それを表に出すことなく立ち続ける姿。それは決して容易では無いはずなのに・・・・
それでも、透流は笑うのだ。この世界を愛してやまない様に。
それと同じ目で自分を見て近寄ってくる。

気がつけば、そんな透流に感化されたのだろう、S.E.E.Sのメンバーが荒垣を見る目は、当初とは全く違ったものとなってしまっていた。
そして、荒垣自身、自分の望みとは裏腹な心が芽生え始めたことから、ついに目を逸らす事ができなくなってしまった。

馴れ合うつもりがなかったのに、パーティーだと料理を振舞った。
思い出など残せば、未練になると分かりながら、思い出を作っている。
まるでいい訳めいたように、それが後に残る者達の、"彼女"のためだと自分に言い聞かせて。

(・・・・矛盾してやがる)

荒垣は鉄柵をギリと握り締める。
拒絶してきた世界を、今さらいとおしもうと言うのだろうか。
残すつもりが無いものを、今さら残し、望む事の許されないものを、今さら望もうというのだろうか。

(出来るわけがねぇ)

全てを捨てたつもりなのに、捨てきれない自分の心に、その絶望的なまでの葛藤に、荒垣の目は眼前の虹を睨み、握り締めた拳は震えた。



透流は、目の前の背中を見つめていた。
いつもなら、穏やかな笑顔を返してくれるはずだった。
もしくは、頭を撫でてくれるはずだと思っていた。
それなのに、この寂寥感は何だろう。
何で、この人は、こんなにも苦痛に満ちて居なければいけないのだろう。

柵を握り締めている手が震えている、厳しい目を前方に向けているのに、何故か今にも泣きそうに見える。

(泣かないで・・・・)


実際に泣いていたわけでも無いのに、透流の目にはそれが見えた気がした。
私知らず、透流はその腕を荒垣に回していた。
理由なんてわからなかった、ただ、抱きしめたいと思ったのだ。
この優しい人を、独りにしたくなかった。




それが一瞬だったのか、長い時間だったのか、二人にも分からなかった。


気がついた時には、お互い弾かれた様に向きあっていた。

「おまっ!!何しやがる」
「あ、え~~っと。ちょっと寒いなぁって思ったら、先輩があったかそうだったんで!!」

心なしか、共に赤くなった耳には、気づかない振りをして視線を逸らす。

「あったかいって・・・・・・て、お前!また熱出てきたんじゃねぇのか!?」

いい訳に口をついたはずの言葉を真に受けたのか、荒垣の手が透流の額に触れる。
その大きく温かい感触に、透流は忘れた何かを思い出した。
ゆかりや風花たちはずっと寝ていたと言っていた。
だけど・・・・

「・・先輩・・・昨日の夜、ラウンジにいました?」

その透流の言葉に、荒垣の顔がほんの一瞬強張る。だが、触れていた手も視線もそっと放すと、荒垣はいつもの調子で答えてきた。

「昨日?昨日の夜はいつもどおりいたが、お前寝てただろ」
「あ、いや、夜ってその時間じゃなくて、もっと遅い時間です」
「影時間の前には寝た。"リーダー様"が不在だったからな」

その言葉に、透流は僅かな拒絶を感じた。でも、確かに透流の目は一瞬荒垣が動揺したのを映していた。

「その後です。会いませんでしたっけ?」
「あ?夢でもみたんじゃねぇか?」

食い下がる透流の問いに、荒垣は事も無げに言う。それは先ほどとは違った、完全な拒絶。
そうですかと返しながら、それでも透流は確信していた。
昨日の夜の出来事が、決して夢ではなかったのだと。

「先輩、私・・・」
バン!!

夢でも忘れませんから、そう続けようとした時、けたたましい轟音が背後から響いた。




「見つけたわよ・・と~~~お~~~るぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」


そこには、まるで死神シャドウを思わせるオーラを纏ったゆかりが立っていた。
その目は、完全に怒りで燃え上がっている。
その纏った空気にビクリと身体を震わせて、透流は荒垣の後ろにさっと逃げこんだ。
顔だけをそっと出して見れば、今にも口から火を吐きそうだ。

「ゆ、ゆか・・り?」
「寝てろって、そう言ったわよね?」

ニタリと笑った顔が、非常に怖ろしい。
優しく返された分だけ、透流の手はがくがくと震えてしまう。

「ね、寝てたよ・・・ちょっとだけ、その、喉が乾いたからで・・・・」
「言ったわよ、ね?」

再び同じ台詞を言われ、透流ははいと頷くしかなかった。

「じゃぁ、今は何してたのかしらねぇ?」

荒垣のコートをギュっと掴みながら、透流は左右に視線を泳がせて冷や汗をたらす。
と、その透流の首根っこを荒垣の手が掴んでいた。

猫の子を持ち上げるように、透流の身体が宙を舞うと、そのままゆかりの前にぺたりとおろされてしまう。

「自業自得だな・・・しっかり説教されろ」
「えぇぇぇ、先輩ひどいぃぃぃぃ」

くくっと笑う荒垣を涙目で見上げた透流だったが、次の瞬間には襲い来るゆかりのオーラにそれどころではなくなってしまっていた。
そんな二人を残したまま、荒垣は静かに屋上を後にした。



自室に戻ったその瞬間、壁を拳で叩きつけると、無言のままその肩を震わせ続けた。
背中に残る微かな温もりが、いつまでも、いつまでも荒垣を包んでいた。


それは優しく、愛しく、そして何よりも残酷に・・・・・




∞――――――――――――――――――――――――∞



たとえそれが、形の無い想いでも


たとえそれが、目に見えない温もりでも



美しく空を彩る雨弓のように


どうかアナタに届いて欲しい



今、ココにある確かな想いを・・・




∞――――――――――――――――――――――――∞





余談

コン

その夜、ゆかりの説教に燃え尽き、かつプリン没収令が出されて灰になった透流の部屋に一度だけノックの音が響いた。
横になったまま、透流が声をかけては見るものの、返事は無い。
訝しんで、ドアを開ければ、辺りには誰も居らず、ただノブにコンビニの袋かかけてあった。

中に入っていたのは、プリンと紙で包まれた小さなスプーンが1本。
その無造作さに、透流はふわりと口元を緩めた。誰が持ってきたか、それだけで分かってしまったからだ。

スプーンを包む紙を取るのももどかしく、口に運べば予想以上に優しい味が口中に広がる。
幸せな気分に浸った透流の目に、包み紙に走り書かれた文字が映った。

『いいモン見してもらった礼だ』

誰も見ていない部屋で、その日一番の笑顔が透流を彩っていた。




∞――――――――――――――――――――――――∞
コミュ8で出来なかった後から抱きしめるをやりたくて書いた。
でも、予想ではもっと軽くて甘い話のはずだったのに
なんでこうなった?(汗)
あ、雨弓=虹の事です。はい
良い話!
ガキさんの葛藤が泣けます。。
後ろから抱きしめるの選択肢が何でないのかー(涙

首根っこ掴まれるハム子が想像できて可愛いですw
はじめましての子 2010/02/21(Sun)11:10:22 編集
Re:良い話!
はじめまして!!
ガキさんは、書けば書くほど苦悩の人で(つД`)
後から抱きしめるの選択肢は何周したら出るんでしょうねぇ。@ラスめ!
実際、100周で出るならやりますよね(笑)
首根っこ掴まれるは、やってみたくてw想像していただけたようならしてやったりでございます!
レス、ありがとうございます<(_ _)>
【2010/02/22 01:50】
プリン!!
やはり、先輩はお優しい~!!
そして、ゆかりっち、コワイコワイ(笑)
acqua 2010/02/21(Sun)12:23:11 編集
Re:プリン!!
冒頭で、ハム子のプリンは順平のお腹にいってしまったので
マエストロAの手作りプリンになりました。
罰になってません(笑)
ゆかりにばれたら、ガキさんも大目玉・・・かな?w
何気に、ゆかりの言うことは言う性格が好きですわ~
恐がってもらえたら、大成功?ふふ
【2010/02/21 15:35】
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