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ここは、「Luftleitbahnen」の別館です。
Fan Fiction Novel-二次創作小説-を置いてあります。
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元々はTwitter上で話にあがったネタです。
最初pixivにあげてみたんですけど、思いのほか文字数あったのでこっちでもいいかなと。
ちなみに、pixivに追加して余談いれました。

シリアスにあげるか悩んだんですが、ギャグでもなかったのでこちらに。
シリアスの小話が考えたら拍手以来初でしたね。

てか、更新自体が・・・(;・∀・)スミマセン
私は一応生きてます。はい。

∞―――――――――∞ 小話 肆(甘時)  ∞―――――――――∞


もうかれこれ何分になるだろう。
荒垣は小さく息を吐くと、ショーケースを凝視したまま動かない彼女の後頭部を小突いた。

「いい加減、どれにするか決めろって。」
「え~~。だって、ショートケーキもいいけど桃のムースも捨てがたいんですもん!!決まりませんよ!」

ビタッとガラスケースに張り付いて、視線だけをせわしなく動かしてはうめき声をあげる。
そんな彼女に、先ほどから店員が苦笑を投げかけているのが地味に痛い。

まったく、どうしてこんなことになってしまったのか。
荒垣はもう隠すのもやめて大きく息を落とした。


そもそもは買出しの帰り道、普段とは違う道を通ろうということになったのが始まりである。
理由は特に無かったし、そこまで遠回りをするつもりもなかった。(食材の鮮度も落ちてしまうので)
ただ、何気ないいつも通りの時間に、ほんの少しだけいつもとは違った「何か」をいれたかったのかもしれない。

そうして歩いた道の先。
小さなケーキ屋をみつけたのは一重に偶然だった。


「このシュークリーム!イチゴが入って、あ、でもアップルパイが呼んでる気もする。」

さっき聞いたのとはまた違うものを挙げながら、意味不明な呟きを漏らす彼女に、荒垣は意を決する。
女の買い物には時間がかかるとは言ったものだが、このままでは魚が腐る!と。

「タイムアップだ、もうこっちで決めちまうぞ。」
「えぇ!そんなぁ、まだショコラタルトの囁きがですね・・。」
「囁いてねぇよ。てか、夕飯作る時間なくなっちまう。それとも作んなくていいのか?」
「そ、それは・・・ダメです。ダメでアリマス。うぅ」

何故か昔のアイギスのような語尾をつけながら、しょんぼりと肩を落とす彼女に胸が痛む。
とはいえ、いつもいつもこの顔に折れていたのでは本末転倒である。
魚が腐ればもっとしょんぼりさせることになってしまうのだ。
(傍から聞いたら「それもどうよ」と突っ込みたくなる)

大人しくなった彼女の変わりに、二つほどケーキを頼むと荒垣は彼女の頭を慰めるように撫でた。

「またいつでも買いにくりゃいいだろ、近くなんだから。」

そんな荒垣を上目遣いに見上げてきた彼女が、拗ねて尖らせていた唇をゆっくりと持ち上げた。
どうやら機嫌は直ったようだ。

「その時はまた一緒に来ましょうね。」
「おぅ。」

「またお待ちしてます」と笑顔で送り出す店員の声に、「また来ます!」ときっぱりと言って店を出る彼女に笑ってしまった。
相変わらず、コロコロ変わる表情に飽きる暇が無い。


「しっかし、こんなとこにこんな店があったとはな。」
「歩いてみるもんですねぇ。今度は別の道からも帰ってみましょうね。」

ケーキを持っていなければ、スキップでもしだしそうな彼女に空いている方の手を伸ばす。
瞳を一瞬大きくしてその手を見つめてから、嬉しそうに伸ばしてきた彼女の手を握ると荒垣は無言で家路を急ぐのだった。




「やっぱり秋はサンマですね♪」
「初物にしちゃ脂が乗ってたな。残りは佃煮にすっか。」

「佃煮!」と目をキラキラさせる彼女に笑いながら、荒垣は冷蔵庫からケーキの箱を取り出した。
それに気づいた彼女が皿とマグカップを取り出す。
彼女がコーヒーを入れている間に、荒垣はケーキをそれぞれの皿に乗せる。

最も長く彼女の視線が突き刺さったであろうシュークリームと桃のムースだ。

シュークリームは他の店と違っていて、エクレアのような細長い生地に、イチゴの薄切りが敷かれその上に上品にクリームが盛られている。
桃のムースはシャンパンで煮た桃がたっぷりと乗っており、華やいだ香りが鼻孔をくすぐった。

どちらも荒垣が見ても美味しそうだった。

「で、どっちが食いたいんだ?」
「え?こ、ここでそれを聞いちゃいますか!?」

驚いたように目を見張った彼女に、荒垣は小さく吹きだすと、言い方を変えた。

「悪かった、どっちが先に食いてぇんだ?半分づつにしたら両方食えるだろ。」

本当に花が咲くように笑うとはこういうことだろうなとばかりの笑顔を浮かべる彼女に荒垣の熱が自然と上がってしまう。
花どころか太陽なんじゃなかろうかなどと考えたのは、きっと思考を逃避させたかったからかもしれない。

荒垣がそんなことを考えている間に、彼女は結論を出したようで、シュークリームの皿を取る。

「そいつでいいんだな?じゃ、後でこっちやるよ。」

荒垣が桃のムースを一すくいすると、彼女の「待った」の声がかかる。
訝しげにそっちを見ると、彼女は笑みを浮かべたまま口をあけていた。

「は?」

分けが分からず間抜けな声を出すと、「『あ~ん』ですよ、『あ~ん』」と彼女が再度口を開ける。

「ば、馬鹿か。できっかよ。てか、こっちが食いたいならこっち取ればいいだろうが!」

慌てて吼えれば、彼女はしれっと笑う。

「だって、先輩がムースすくったのみたら凄い食べたくなったんですもん。でも気持ち的にはシュークリームの方が先に食べたい割合が高いわけで。」
「つまり、一口下さい!ってことです。ね?」

小首をかしげて笑う悪魔に、何が「ね?」だと突っ込みたくなる。
正直、こんなことにならないように先手を打つ意味で選ばせたのに・・・どうやら向こうの用が上手のようだ。
こうなったら、多分梃子でも動かないのが彼女である。

荒垣は仕方ないとばかりにすくったスプーンを彼女の口元に運ぶ。

パクッ

「!?」

口の中に広がる甘い味・・・とばかりに期待していたであろう彼女の目が白黒している。
そう、頬張る瞬間、反射的に目を閉じたのを見計らって荒垣はスプーンを引いていたのだ。

ニヤリと笑う荒垣に、彼女が涙目で睨んできたが、それを見計らってスプーンを再度伸ばしてやる。
そうすれば、ぷくりと頬を膨らませたまま、その先にかぶり付くのだからなんとも愛おしい。

「これ、すっごい美味しいです!」

先ほどの悪戯などついぞ忘れたかのよう膨らんでいた頬がゆるみ、瞳が幸せを語っている。
その顔に荒垣自身幸せを感じつつ、自らもケーキを口に運ぶ。

「ん。確かにうまいな。桃の味と香りも十分引き立ってる。」

ふわりと先に立ち上るシャンパンの香りの中に、桃の香りがやさしく絡む。
甘さも砂糖の甘さというよりは桃の甘さが口にさらりと残る感じが心地よかった。

「この店は当たりだったな。ん?」

ムースの味に集中していた荒垣の前に、スプーンが伸びていた。
その上には上手くカットされたシュークリームが鎮座している。

「先輩、『あ~ん』」
「いや、おれは別にこっち半分食ったらで・・」
「『あ~ん』」

先ほどと同じように、だがどこか有無を言わさぬ笑みでスプーンを伸ばしてくる彼女に冷たい汗が背筋を伝う。
どうやら、ケーキの美味しさでさっきの悪戯が帳消しにされたわけではなさそうだ。
小さく呻きつつ、荒垣は口をあけた。
彼女の気がすまない限り、彼女は残りのケーキを食べないことが分かっていたからだ。

パクリ

「!?」

にっこりと笑う彼女に、今度は荒垣が目を白黒させる。
きっと空を嚙むことになるだろうと思っていたのだが、荒垣の口の中には甘いクリームの味がした。

「私は大人だから、先輩みたいな子供っぽいことはしませんよ~だ。」

今にも舌でも出しそうな口調で言うあたりが、「大人」とは程遠いと思うのだがそれは心にしまっておく。
ゆっくりと咀嚼すると、シュー生地のさっくりとした感触、イチゴの仄かな甘酸っぱさ、それを纏めるクリームの滑らかさが口いっぱいに広がる。
文句なく美味しかった。

「そうかよ。てか、こっちも美味いな。食わねぇならもらっちまうぞ?」

わざと伸ばしたスプーンに、彼女が慌てて口にケーキを運ぶ。

「美味しい!!先輩、イチゴが凄くあってますよ!」

嬉しそうに叫ぶ彼女に、荒垣も同意の笑みを浮かべる。

「シュークリームにイチゴってのはあんま見ねぇな。でも悪くねぇ。」
「これ、私も作ってみようかなぁ。」
「なら、こっちのムースも作れんじゃねぇか。あぁ、これからの季節なら桃じゃねぇな。洋梨か?それとも・・・・」

 ・
 ・
 ・

 ・



二つのケーキがもたらしたもの、それはきっと口福だけではない甘い幸福。

eabee983.jpeg



余談



「先輩、もうお腹いっぱいですか?」

ケーキを食べ終え、一緒に洗い物を済ませると彼女が上目遣いにこちらを覗きこんで来た。
その目の奥に滲む色に覚えはあったのだが・・・・・

「なんだ、まだ食い足りないのか?」

あえて荒垣はそれに気づかない振りをして、呆れたような声音で問い返した。

「ち、違いますよ!失礼ですねぇ。もぅ。」

此方の問いに慌てて両手をパタパタと振って頬を膨らませる彼女が可愛らしいと思う。
自分も大概だなと思ってみたが、それも今更のことだとつい苦笑を浮かべてしまった。

「や、あの、お腹いっぱいだったら仕方ないんですけど・・・」

自らの浮かべた表情に何か勘違いをしただろう、急にしどろもどろになる彼女にくすりと小さく笑う。
そして徐にその小さな身体を引き寄せると、彼女のものだからか、それとも先ほどのケーキの名残か、甘い唇をそっと塞いだ。



「こういうことだろ?」



真っ赤になって瞳を潤ませる愛しい女。
その唇が肯定も否定も紡ぐ前に、荒垣は再び沈黙を落とすのだった。




その後は、きっともっと甘い時間。




∞――――――――――――――――――――――――∞
ケーキで甘い話だから、これくらいいいよね?ね?w
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