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ここは、「Luftleitbahnen」の別館です。
Fan Fiction Novel-二次創作小説-を置いてあります。
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∞―――――――――∞ 喪失 05  ∞―――――――――∞
 


「…来た、か。」

透流の部屋で、机にもたれるようにして立っていた荒垣が、顔を上げる。
世界から音が消え、緑色の燐光に彩られる、時間。

ベッドでは、ぐっすりと眠っている彼女。
この狭間の時間に、彼女は、彼女として、そこに存在していた。

象徴化の可能性も考えていた。
適性を、完全に失ってしまえば、それは影時間で害される可能性もゼロに近くなるという事だ。

だが、安らかな、眠りを享受する彼女は、その姿を、変えることなくそこに在った。

「適性は、失われてねえ…か。」

荒垣の呟きが、音の無い世界でやけに大きく響いた。
その言葉に反応したのか、彼女の瞼が、ぴくりと動いた。

ゆっくりと、その、目が開かれる。
起き上がった彼女の、その、焦点の合わない瞳が、荒垣を見た。

ぞくりと、背筋に冷たいモノが走る。

何か、凶々しい、気が、彼女から流れてくる。

『シャドウの気配がします!』

「荒垣さん!! 透流さん!!」

ドアを開け、アイギスが入って来る。

「武器は使うな。
透流に、攻撃を当てるなよ。」
「分かっています。」

ぐるりと、頭を巡らせ、アイギスと荒垣を交互に見る、透流の目に、凶悪な光が浮かぶ。

ずるり…。

濡れた音がして、黒い影が、透流から抜け落ちた。
同時に、彼女の身体が力を失い、ベッドへと倒れ込んだ。

その、黒い影が、凝集し、人の姿に変わる。
陽炎のように、ゆらめきながらも、それは、透流の姿になった。

「とお…る…。」

呆然と、呟く荒垣の声に、振り返った、その影は、禍々しい笑みを浮かべながらも、どこか悲しげな瞳をしていた。

『ダメです!荒垣先輩! 逃げて!!!』

風花の叫び声が、脳裏に響く。
だが、荒垣は一歩も動けない。

「荒垣さん!! …パラディオン!!!」

アイギスが、ペルソナを召喚し、透流の影に、攻撃を加えようとしたが、それは、荒垣がアイギスとほぼ同時に召喚したカストールによって阻まれた。

「荒垣さん!?」
「こいつは、シャドウじゃねえ。
見たろ?お前も。コレが透流の中から出てくるのを…。」

ゆらりと、ゆらめいたまま、そこに立つ、透流の影に、荒垣は歩み寄る。

『危ない!!』

風花が叫ぶ。

「…っ。」

うめき声が、荒垣の口から洩れる。
見えない、刃に、切り裂かれ、荒垣の腕から、鮮血が滴り落ちた。

「透流…。」

荒垣の身体が、切り裂かれていく。
その、頬に、首筋に、背中に、足に、降り注ぐ不可視の刃。

いくつもの傷が、血を滴らせ、それは床に落ちていく。

「そんな傷じゃ、俺は殺せねえ。
切り裂くなら、ここを狙えよ。」

荒垣は、自分の首を、透流の影に見せながら、呟く。
一歩、近づくと、影が怯えたように、後ずさった。

「アイギス、手を出すなよ。」

近づこうとしたアイギスを制し、荒垣は透流の影に近寄ると、その手を取った。
細い、指。

それを、荒垣は己の首にあてがう。

「ここ、だ。
…やれよ。」

静かで、穏やかな、荒垣の声が、音のない部屋に、響く。

その声に、アイギスが目を見開く。

荒垣の放つ、波動。
それは、穏やかで、深い、想い。
命を、ここで、彼女の為に捨てる覚悟なのだと、アイギスには分かった。

自分だって、彼女の為なら、破壊されることを厭いはしない。
だが、人間には、生き物には、生きたいという本能があるはず。

なのに、荒垣はそれを捨てる覚悟なのだ。
ただ、彼女の為だけに。

アイギスの目の前で、透流の影の腕を掴み、その指先を首にあてがいながら、荒垣はじっと其れを見つめる。
影が、ゆらめく。

荒垣は、影が、逃げようとしているのだと、直感し、その、身体を抱き寄せ、口づけた。
その唇は、冷たかった。
だが、触れた瞬間、透流が泣いている様な気がした。
どこかで、ひとり、泣いている…。

抵抗する影。
増えていく傷に構わず、深く、口づけると、やがて、抱きしめていた影から、抵抗が消えていった。

唇を離すと、見上げてくる、その、虚ろな瞳。
だが、その奥に、哀しみがあるのを荒垣は知っている。

「必ず、取り戻してやる。」

影に向かって、はっきりと、そう口にする。

や く そ く

影の、唇が、そう、動くのが分かった。

「約束だ。」

荒垣が、そう、呟いた次の瞬間、抱いていた影が、ゆらり、と揺れ、そしてベッドに倒れている透流に重なるようにして、消えた。

「荒垣!!」
「シンジ!!」

荒垣が、傷の痛みに、膝をついたとき、駆けこんで来たのは、美鶴と真田だった。
アイギスと真田に支えられるようにして、立ち上がった時、影時間が、あけた。

音が、戻る。

「…アイギス、俺はいい。
こいつに付いていてやってくれ。」

荒垣が、ぼそりと呟く。
アイギスは、わかりました、と小さく呟くと、順平と交代し、彼女の部屋に残った。


作戦室で、ゆかりにディアラマをかけてもらいながら、荒垣は切り裂かれてしまったシャツを脱ぐ。

「ホラ、着とけよ。」
「ああ、サンキュ。」

真田に渡されたシャツを羽織り、荒垣はソファに腰をおろした。

「岳羽、ありがとな。おかげで傷口はふさがったみてえだ。」
「…魔法が効く傷でよかったですよー。」

召喚器をしまいながら、ゆかりがほっとしたように笑顔を見せる。
他のメンバーも、安堵の表情を浮かべ、荒垣を見つめた。

「まったく、お前が、あんな無茶をするとは思わなかったぞ、荒垣…。」

荒垣の横に、腰を下ろした美鶴が、うっすらと痣のように残る傷跡を見ながら、ため息交じりに口にすると、荒垣は肩をすくめて苦笑した。

「…そう見えたかもしんねえが、アレには俺を殺せねえって…分かったからな。
だが、おかげで確信も持てたしな…。」
「…確信?」
「ああ…、明日、アイツを連れて、俺はタルタロスへ行く。」

荒垣の言葉に、全員が、息をのむ。

「しかし、荒垣…、今の彼女はペルソナを呼べないどころか、恐らく、戦う事もできないだろう。
…危険すぎる。
彼女にとっても…我々にとっても。」
「山岸、コレ、アイギスにもちゃんと伝えてるか?」
「ハイ。」
「転送機で移動できるのは、一度に四人。
俺と、アイツと…。
おい、アイギス。お前責任もってアイツを守れ。 戦いには参加しなくていい。
必ず、守れ。いいか。」

荒垣がそう口にすると、作戦室のモニタから、了解であります。とアイギスの声が聴こえてくる。
カメラに視線を向けるアイギスの瞳には、決意がこもっていた。

「あと一人はどうする、シンジ。」
「…。」

真田の言葉に、荒垣は押し黙る。
三人のみで、タルタロスにもぐるつもりの荒垣は、どう、皆に説明したものか、迷っていた。

「私が行こう。」

美鶴が、立ち上がりながら、きっぱりと口にする。

「お前はダメだ。」
「…っ! 何故だ!」
「アイツがもし、戻らなかったら、お前がリーダーだ。
お前まで倒れたら、どうなる…。」

冷酷なまでに、冷たく、低い声で、荒垣が告げる。
自分は、最悪、アイギスと彼女だけでも逃がす時間が稼げればそれでいい。
アイギスには悪いが、メモリとパピヨンハートが残れば、何とかなる。

「お前は…。」

--戻れないかもしれないと、覚悟しているのか。

美鶴は、荒垣を見つめる。

「いや…、やはり私も行く。」
「桐条!」
「私は、安全な場所で待っているなぞ、出来るものか…。
全員の命を、預かるからこそ、私が行く。」

交わった視線に込められた、互いの想いを、確かめるように、荒垣と、美鶴は頷き合う。

「…お前も、たいがい変わり者だよな。
大丈夫だ。俺らは死にに行くわけじゃねえ。

…取り戻しに行くだけだ。アイツを。」
「ふ…。
お前に言われたくはないがな、荒垣。
…お前の、彼女への執着に、期待しているぞ。」
「言ってろ。」

不敵な笑みを浮かべる荒垣に、美鶴も笑みを返す。

「よし、今夜は解散だ。
…明日はタルタロスへ向かう。」

美鶴の言葉に、全員が頷く。

必ず、取り戻す。
その決意を、胸に…。

∞――――――――――――――――――――――――∞
透流の狂気は・・・世界を壊すのですよ。
なんかね、そういうのを盛り込んでくれるacquaさん大好きです。
ほんとうにねぇ、暗い話が好きで、でもラブイのが好きで、
ツボには入りまくって悶えまくってるmiyaですわ
 
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