∞―――――――――∞ 喪失 02 ∞―――――――――∞
三人は、タルタロスのフロアをひた走る。
『死神…?』
風花の、声が響く。
確信が持てず、自問しているような、その、声色。
「どうした!?山岸。」
『桐条先輩…、皆さんが向かっている方向…透流ちゃんがいるあたりに、死神らしき気配が…。
でも、ぼんやりして、掴めないんです。
桐条先輩はどうですか?感じませんか?』
「いや、私の方では感じない。」
「急ぐぞ!」
二人の会話を聞いていた荒垣が、走る速度を速める。
鈍器の重みが、鬱陶しいと感じる。
重量に任せ、敵を屠る武器だ。担いで走るには不利だった。
シャドウが居ないのなら、いっそ武器を捨てていきたいくらいだが、そうもいかない。
『透流ちゃん!?
皆さん、急いでください! 透流ちゃんの様子が…。
死神が!!』
「どうした、山岸? 交戦中か?」
『…違います。
死神も、透流ちゃんも、何と言うか、対峙したまま、止まってる…。
透流ちゃん! しっかりして!!』
風花の悲痛な叫び。
だが、風花の言う、状況が今一つ掴めない三人は、顔を見合わせると、首を傾げたが、とにかく、透流の元へと走った。
「透流!!」
「無事か! 常磐!?」
「二人とも、無闇に突っ込むんじゃない!」
一番奥にある、部屋に駆け込んだ三人は、目の前の光景に、驚愕した。
凍りついたかのように、動けなくなる。
三人の視界の先には、召喚器を手にしたまま、立ちつくし、微動だにしない透流。
そして、その、正面に、奇妙なモノ。
先ほど倒した、死神とは似ても似つかない、その姿に、三人は戸惑う。
「桐条…、あいつは、何だ?」
「分からない…。初めて見る…いや、どこかで見た事がある。」
「おい、美鶴。
あれは、四月に寮が襲われた時の…。」
真田の言葉に、美鶴がハッとしたように顔を上げる。
「!
そうだ。彼女が、初めてペルソナに覚醒した、あの夜に…。
オルフェウスを食い破るようにして、出て来た、あの、ペルソナに似ている!」
「んだと!?
呼び出したペルソナの中から出て来ただと!?」
--くそっ!
まさか、こいつも、ペルソナの制御が不安定だとか言うんじゃ…。
いや、、違う、それだったらもっと兆候があるはずだ…。
こいつは俺とは、違う…。
荒垣の頭の中で、様々な想いが浮かんでは消える。
「とにかく、引き離して、離脱するぞ。」
真田が、グローブを外し、透流へと右手を伸ばした。
「明彦、待て…!」
「う… わっ!?」
美鶴が、異変を感じ、制止しようとしたが、間に合わなかった。
透流の腕を掴んだ、その途端、まるで何かに弾かれたように、真田の身体が宙を舞った。
「カストール!」
すかさず、召喚されたカストールが、落ちていく真田を受け止めて、落下の衝撃を和らげると、ふ、と消えた。
「すまんな、シンジ。」
「ああ。」
「山岸、アレは死神、なのか?
透流…常磐のペルソナじゃねえのか?」
『はい…。
気配は、確かに、死神タイプで…多分シャドウだと思うんですけど…。』
「…多分?」
『シャドウは、通常は明らかな害意を発しているので、ペルソナとは全然違うんです。
でも、この、死神は戸惑っているというか…、なんだか、迷ってるみたいで。』
風花の言葉に、三人は顔を見合わせた。
言葉通りなら、今すぐ、戦いを仕掛けてくる、というわけでもなさそうだが、だからと言ってこのままという訳にもいかない。
「…このまま、放っておいて解決するってわけでも、ねえよな…。」
ふう、とため息を吐いて、荒垣はポケットから何かを取り出すと、指でピン!と弾いた。
真っ直ぐに、死神と呼ばれた存在に飛んで行ったそれは、死神に当たる寸前に、何か、硬いものに弾かれたように跳ねかえり、荒垣の足元に転がって来た。
「シンジ、それは一体?」
「ゲーセンのコイン。」
「ゲーセン?」
真田と、荒垣の後ろで、美鶴が、何だそれは、と呟いている。
ゲーセンなるものの意味が分からないのか、ゲーセンのコインというものが分からないのか、ぶつぶつと呟いている。
「…仕方ねえ。
二人とも、少し俺から離れてろ。
カストールで、一発ぶちかましてみる。
俺は自分で何とでもできる。
あいつから、目を離すなよ。」
二人を振り返った荒垣が、召喚器を手にしつつそう言うと、真田も、美鶴も、真剣な眼差しを荒垣に向け、頷いた。
こういう時、この二人は察しがいい。
荒垣は、ふ、と微笑んだ。
「よし、行くぞ。」
荒垣は、再び透流と死神に向き直ると、召喚器をこめかみにあてがう。
そして、迷いなく、その、引き金を引いた。
薄氷が割れるような音、じゃら、と鎖を引く様な微かな音が響き、荒垣が青い光に包まれる。
カストールが雄たけびを上げると、不可視の力が、死神へと放たれた。
パリッ
静電気が、火花を散らして放電した時の様な、軽い音が響く。
そして、透流と、死神を包んでいたのであろう、何かが、光り、激しく明滅を始めた。
荒垣は、再びカストールを呼び出すと、そのまま、光球へと体当たりさせる。
光に触れた、瞬間、荒垣の心に、そして、その身体に、強烈な衝撃が走る。
「うっ!?」
「シンジ!?」
荒垣の異変を感じたらしく駆け寄ろうとする真田を制し、荒垣は己を屈服させようとする、衝撃に、力の限り、抗う。
「シンジ!!」
「う…るせえ…。 だまってろ!!」
荒垣が、カッと目を見開き、叫ぶと、光球は、一瞬強い光を放ち、そして唐突に、光を…力を失った。
透流の身体が…、二重にぶれる。
ふわりと浮きあがっていた身体が、ゆっくりと、降りてくる。
荒垣が、その身体を受け止めるため、駆けこむと、真田と美鶴も同じようにして透流の下へやってきた。
その身体から、何かが分離するのが、三人の目に映った。
透流の身体から、分離するように、空中に浮かんでいる其れは、目の前に居る、死神と同じ姿をしていた。
『あ…透流ちゃんから、ペルソナが…。あれ?でも…この気配は…。』
風花の、声に呼応するように、透流の身体から分離したペルソナが、”目覚めた”。
それは、目の前に在る、死神のシャドウに、すっと近づいたかと思うと、その姿が、ぴたりと重なった。
ゆら、と揺らめく。
”其れ”は、透流を、じっと見つめ、そして、何故か、荒垣を見た。
自分を、見た、と、荒垣は思った。
何かが、伝わって来る。
だが、荒垣は、其れを掴み損ねた。
なぜなら、意識を向けた瞬間に、其れは、消えたから…だ。
透流を、荒垣の腕が、抱きとめた時、そこには四人以外に、意味の在るものは存在しないかのように、ただ、静寂が在るだけだった。
腕の中の透流の口元に、荒垣が顔を近づけると、微かに、温かな息がかかる。
「…山岸、こいつは一体どうなってる…?」
『…すみません、分かりません…。』
すまなさそうな風花の声。
彼女とて、全てが分かる訳じゃないのだ。
「ともかく、寮へ、戻ろう。」
真田が、荒垣の武器を手にすると、荒垣の肩を、ぽん、と叩く。
三人は、風花のナビに従い、脱出ポイントへと向かう。
荒垣は、腕の中に、確かにある温もりを、感じながら、それでもなお、喪失の不安に、怯えていた…。
∞――――――――――――――――――――――――∞
緊迫の連続で・・・ドキドキドキ
このあと、透流はどうなるのでしょうか(/ω\)
いや~~~。続き!!続き~~~!!!!
(馬鹿ですみません。<(_ _)>)
緊迫の連続で・・・ドキドキドキ
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