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ここは、「Luftleitbahnen」の別館です。
Fan Fiction Novel-二次創作小説-を置いてあります。
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以前のサイトのキリリク克舞話です
ED後の話でシリアスをとのことで書かせていただきました。
頑張って書いては見たものの、どうしても私には兄と舞耶の中から完全に達哉を抜いて考える事ができませんでした。
シリアスになればなるほど二人の中の達哉の位置って言うのはとても重要なんじゃないかと。
でもそれは執着とかという意味じゃなく昇華して思い出の中に帰っていくような、そんな感じで書いてみたつもりです。
後は普段は見せない舞耶の中の葛藤にも注目しています。これは兄についても同様です。
少しでもそれを感じていただければ嬉しいかなと思います。

- 告戒 -

「!!・・・・克哉・・さん・・」
舞耶は驚愕と困惑の色も隠さず、ロビーに立つその人物を見つめた


あれから幾日たったのだろう
あの悪夢のような戦いの日々が終わり、日常という二文字が
何よりも尊いものなのだということに気付かされてから


舞耶はあれ以来(うららを除いて)共に戦いを乗り越えてきた仲間達とも
会ってはいなかった
仕事が忙しい、これがその理由であり本心を隠すための唯一の言霊だった
実際仕事が忙しいのは事実だった
あの事件の所為でネタは不足するどころか人手はいくらあっても足りない
舞耶自身もここのところは会社に泊り込むことも少なくは無かった
だが時間を取ろうと思えばいくらでも都合がつくのもまた事実だった
しかしそうはしなかった、うららを介し何度かあった誘いも全て「仕事」を理由に断った
本当は誰とも会いたくは無かったのだ、うららとさえ・・・・
それが本音だった
仕事に打ち込んでいることもそうだった
仕事をしている間は全てを忘れられる、それ以外の感情に囚われる事はない
それがさらに舞耶を仕事へと駆り立てていた
あれ以来自分の中に渦巻き消える事のない疑問符から逃れるために


忘れたいわけじゃないの・・・
逃げたいわけじゃないの・・・
ただ分らないの・・・・私は誰?・・・



克哉もまた言葉に出せない想いを持って、だが深い決意を胸にこの場を訪れていた
あれからうららに頼んで何度か連絡をとってもらったのだが
一度として舞耶と見える機会はなかった
それが舞耶の意思である事はさすがの自分でも分っていた
「仕事」という言葉のもつ意味にそれ以外の想いが含まれている事など・・・
だが克哉自身、己の迷いをいまだ断ち切れずにいた
彼女に会わねばならない、だがそれは・・・・
その迷いが自分自身で連絡をとる事をおそれ、うららを介するという行為となった
しかし数日を経て、克哉は決心していた
それゆえにここに来たのだ、彼女に合うために


就業時間を大分過ぎ、人気もまばらになったころ舞耶はロビーに降りてきた
少し疲れの刺した顔色が気にはなったが、何よりあれ以来久方ぶりに合った彼女に
克哉は自分の中の決意が揺るぐのでは無いかとその方が気にかかった


そんな克哉に舞耶が気付いたのはエレベータを降り、出口に向かいかけた時だった
誰もが出口を目指す中動かぬ人影があった
自然目はそちらを向くと、其処に立っていたのはあまりにも見知った人物だった


「!!・・・・克哉・・さん・・」
知らず言葉が口をついていた
あまりに急な事に頭が働かない
舞耶は視線をはずす事も出来ずただ呆然と立ち尽くしていた


自分がここに来たのが意外だったのだろう
呆然と自分を見つめる舞耶に逆に克哉は慎重に言葉を選びながら話し掛けた
「そろそろ仕事も終わるんじゃないかと思ってね待たせてもらったんだ、少し、いいかな?
どうしても天野君に渡したいものがあるんだ・・・その、時間は取らせないよ」
静かな口調ではあったが、その言葉にはもはや「仕事」を理由にする事を許さない
そんな意味が多分に含まれている事が舞耶には痛いほど感じられた


ガラス張りの休憩所は、夜の闇に溶け込み其処だけまるで別世界のようにたたずんでいる
克哉は我知らずタバコを取り出すと、静かにその先に炎をともした
「克哉さんてタバコ吸ったのね?あの戦いのときは一度も見なかったけど・・」
純粋な疑問を舞耶は克哉に投げかけた
「ああ、実は禁煙していたんだ・・願掛けのつもりもあったんだがね・・」
半分自重したような笑みを浮かべながら、克哉は一つ大きく息をつく
再び沈黙がその場を覆いお互い言葉を出すことができなかった
舞耶も克哉もそのしんとした空間に何かを求めているようにさえ思えた



小さな炎がその寿命を終えたとき、克哉は胸ポケットから一通の封筒を取り出していた
飾り気のない白い封筒
克哉はそれを舞耶に差し出しこう告げた
「あいつから、向こうの達哉から君に宛てた手紙だ・・・・あの後
家に帰ったときに僕の机の上に置いてあったのに気付いてね
君宛だったので、もちろん封は開けていないよ
もっと早くに渡したかったんだが・・・連絡が取れなくて・・・・」
半分以上聞いていなかったかもしれない
舞耶はただその白い封筒を見つめたまま凍りついたように動く事が出来なかった


表面には「舞耶姉へ」ただそれだけしか書き記されてはいなかった


克哉から差し出されたその封筒にしばらく釘付けになっていた舞耶だったが
再びそれを克哉の方に戻しながら静かに首を横に振った
「私にはこれを読む資格なんてないわ」
舞耶はうつむきそう告げた


「天野君?・・」
正直克哉は舞耶の応えが理解出来なかった
逆に舞耶以外にこの手紙を読む事が許されたものなどいないのだ
それを託された自分さえ・・・そう思っていたのだ
手紙の内容が気にならないはずなどなかった
達哉の、向こう側の弟の痛いほどの気持ちと
舞耶に対する自分の感情が情けないほど自分をかき乱していた
本来ならばすぐにこの手紙を渡さなければいけなかったのだ
だが迷いがそれを拒んだ、どちらかを選ばなければいけないことに
しかしどちらも今の自分にとってはかけがえのない存在だった
だからこそ決意したのだ、この想いに決着をつけることを


だが唯一の享受者であるはずの舞耶はそれを否定していた
「?どうして資格がないなんて?これは紛れもなく君宛だよ」
克哉はうつむいた今の舞耶が自分が今まで見てきた彼女と
同一人物には思えないほど弱々しく見えた
「どうしたんだい?その、君らしくないというか・・・!!」
それ以上言葉が出なかった
顔を上げた舞耶はその頬を濡らしていた


舞耶自身、頬を伝う感触に気付いてはいた
だがそんな事はどうでも良かった
ただ、克哉の言葉があまりに核心をついていて、逃げつづけていた自分に
応えを出せない自分に涙を止める術がなかった
「私らしい・・・?私らしいって何?」
舞耶は涙同様その言葉もまた堰を切ったように止める術をなくし
克哉に向けて吐き出していた
「・・・私宛?どの私?死んだはずの女?向こうの人間?・・・・
私は誰なの?向こうの記憶が正しいのなら、今の記憶は嘘なの?
今の私を決めたのは何?・・・・こちら側の今まではまやかしなの?」
それは自分への問いに他ならなかった
達哉と出会い岩戸山で思い出した向こう側の自分、死んだ自分
二つの記憶、重なり合わない23年・・・
どちらもホント、だけどありえないもの
それでも皆と戦いながら自分は自分だと思っていた
天野舞耶という一人の人間だと・・・・だけどどこか違うのだ
「私は達哉君の望む私じゃない、向こう側の自分にはなれない
達哉君を孤独に追い込んで、ずっと一人にしたのは私なのに
彼の罪を、その罰をこの身に変わる事さえ出来ない・・・・・・・」
その後はもう言葉さえ出ず、ただ頬を伝い滴り落ちる感触が
ぼやけた視界が全てだった


克哉は舞耶の独白をただ静かに聞いていた
彼女の迷い、苦悩その全てを
そして理解した何故この手紙を達哉が自分に託したのか


克哉はおもむろに手紙に手をかけると、舞耶の前でその封を開けた
中に入っていたのは二つに折られた一枚の白い紙だけだった
克哉はそれを静かに広げながら(自分はそれを見ようともせず)
舞耶の前に差し出し告げた
「達哉は、向こうのあいつは君にそれを求めたりはしないよ
あいつの望みは君が君でいることだと思う、こちら側の君でいる事」
それは心の底からの言葉だった、もう克哉には迷いはなかった
舞耶の言葉とこの手紙の意味を理解したとき
克哉の迷いは消えていた
迷う事などはじめからなかったのだ


舞耶は克哉の言葉が達哉のそれに重なって聞こえたような錯覚に陥った
無論そんな事はあるわけがないのだが、救いを求める自分の心が生んだ
勝手な想像だったのかもしれない
そう思いつつもそれでも自分が誰なのか、その答えを見つけたような
取り戻したような気がした
だが最後に背中を一押しをしたのは短いその文章だった


俺は舞耶姉を忘れる
だから舞耶姉も俺を忘れてくれ


彼らしいといえば此れ程彼らしい文章もないのかもしれない
そんな思いがふと頭をよぎる
舞耶はなんだか可笑しくなっていまだ涙でぼやけた視界のまま
くすくすと笑みをこぼしていた


達哉君はちゃんと前に向かって歩き出してる
私は一体何をしていたの?それを彼に望んだのは私じゃない
それなのに私が後ろばかり見ていてどうするの?
私も歩き出さなくちゃ!
そうよ、これが私だもの!!


いつしか舞耶の瞳は光に満ち、その色は今までになく鮮やかに輝いていた
もう迷う事はない、自分は自分、過去は今の自分を作るもの
だったら両方の過去を持った自分に成ればいい
それが私、天野舞耶


迷いを断ち切った舞耶を見つめ、克哉もまた微笑んでいた
自分の迷いを、執着を断ち切ってくれた舞耶に
今度は自分が力を貸すことが出来た。克哉にはそれが素直に嬉しかった
「自分で決めた事」彼女のこのたった一言が自分を変えた
長兄の義務だと、そのために夢を捨てたのだとそう思っていた
だがそれは違った、そう自分で決めたのだ
何より大切なものを取り戻すために、守るために生きるのだと
今はその選択が正しかったと思っている
そして今なお夢は諦めない、夢もまた変わっていくものだから


「天野君、1つだけ頼みたい事があるんだ」
克哉は真っ直ぐに舞耶を見つめると、再度手紙を彼女に差し出しこう続けた
「どうか君だけはあいつの事を忘れないで欲しい
あいつの守りたかったこの世界で、たとえ誰が知らなくても
君だけはあいつの心をあいつの存在を忘れないでいて欲しいんだ
もちろん僕も忘れない、あいつの守りたかったものは僕にとっても同じだから
あいつの守りたかった君を、君の中のあいつごと僕が守る」
迷うことなどはじめからなかった
自分の中から舞耶を達哉を消すことなんてできるわけがない
そして彼女の中から達哉を消すことだって出来はしない
それならば、そうどちらも大切ならばどちらも守ればいいのだ、ただそれだけではないか
何故選ぶ必要がある?それこそが愚問だ
これが克哉の応えだった


克哉の応えをその身に受け、舞耶は封筒を受け取っていた
飾り気のない白い封筒
彼の残した遺志
舞耶は満面の笑みを浮かべると克哉に向かって手を差し出した
「克哉さん、ライターかしてくれない?」
その言葉に克哉は無言で頷くとポケットからそれを取り出し舞耶に手渡す
「・・・これが私の応え・・・・」
そう言うと、舞耶はかすかな石の焼ける匂いと共にあがった小さな炎に
その封筒をかざした
雪が解けるように見る間に崩れ落ちていくそれは、灰皿の上に跡を残して消滅した


これはもういらない、いるべき答えを見つけたから


舞耶は克哉にライターを返すと再び微笑んだ
「それじゃぁ克哉さん、パラベラムにでも行きましょう?」


夜の闇が静かに深まり、二人の姿はその先に消えていった

 

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