てか、読む前に言っておきます。甘くも無ければ辛くもない・・・むしろ意味分からん。
正直、これ、元々ガキさん視点の話を書きたかったのですよ。
でも、それ書く前どうしてもハム子(うちの主人公は常磐透流ですが)視点がいるなぁって・・・
書いて見たら、とんでもない支離滅裂なモノになってしまった。
大変お目汚しですが、お許しください。
ガキさん視点の方頑張ります。はい。
一応、某台風の風邪ネタです。
∞――――――――――――――――――――――――∞
夜は嫌いじゃない
でも、眠るのはイヤだった
夢ではないユメを見るから
起きてしまえば後味の悪さだけが残るそれに
私はいつもうんざりしていた
夜は嫌いじゃない
でも、眠るのはイヤ
いつかそれが現実になりそうな
そんなキガシタカラ
∞―――――――――∞ 夢現 ∞―――――――――∞
走っていた
焼け付くような痛みに喉が悲鳴をあげているのを感じながら
でも、それが夢だと知りながら
私は走り続けていた
(夢なのに、なんで毎度毎度こんなに疲れなきゃいけないんだろう・・・止まっちゃおうかなぁ)
時折、そんな事を冗談めかして考えてしまう
だけど、この暗闇の中で、それだけはしてはいけない事も知っていた
理由なんて分からない
ただ、止まってしまったら
・・・きっと捕まる
背後から来る、何か得体の知れ無いモノに
そう、そのことだけが、分かっていた
だから走っていた
目覚めればいつも忘れてしまうのに
それでも、現実と言うゴールを探して
私は今日もその暗闇を走り続ける
終わらない・・・夜の夢の中を
(なんだろ・・・ちょっと、おかし・・い・・?)
違和感に気づいたのはいつだろう
いつもなら、もう目が覚めてもおかしく無い頃なのに
一向に闇が晴れる気配がしない
それどころか、熱を持つ喉とは裏腹に
体は少しずつ回りの闇に飲まれるように凍てついていく
感覚がなくなってきた足を、それでも必死に動かそうとする自分の耳に、
甘美な自分の声がこだました
《止まっちゃおうよ》
さっきまでの、冗談めかした思いではなく
それは、まるで悪魔の囁きだ
甘く、そして優しい響きで、自分を誘う
(ダ・・メ・・・)
抵抗する自分とそうでない自分がせめぎ合う
だが、そうしている間にも、体は凍え、足の動きは鈍っていく
(もう・・・足が・・・)
「 」
(・・・あ・・れ?)
その時、ふと身体を何かが包み込んだような気がした
暖かい、そんな何か
(・・・走らなきゃ)
その温もりを励みに、何とか足を動かし続ける
先の見えない闇の中を、目覚めと言う光を探して
そうしてどれだけ走っただろう
不意に小さな光が前方で瞬き消える
(あれ・・・は?)
もう一度目を凝らして、前方を凝視する
再び、かすかな光がチカチカと明滅する
(やった、きっと出口だ!!)
期待から希望へと変わった思いが、最後の力を与えてくれる
凍えそうな身体は変わらなかったが、それでも最後とばかりにスピードをあげる
光が見えた
しかも、先ほどより近くに、先ほどより大きく
(もう・・・ちょっと)
手を伸ばそうとした瞬間・・・・光は猛スピードで
こちらに突っ込んできていた
「ひゃぅぅぅ」
ついついそんな悲鳴ともとれない声を上げ、透流は額を押さえてぼんやりと目を開けた。
薄墨に染まったように、はっきりとしない視界の中で、だがそれが現実だと言う事だけは本能が理解していた。透流は、我知らず安堵の息をつく。
「・・・ようやくお目覚めか?」
ふと、傍の方から呆れたような声がした気がした。
透流は、声の主を探すつもりで、ボーっとしたまま顔をあげた。しかし、その視線は目の前でピタリと止まると、そのまま一点を見つめる。
そこには何故か、水の入ったコップが浮いていた。
「・・おでこ・・・つめひゃい・・・・」
思い出したように、額を押さえていた手をさする。
まだ頭がうまく働かないようで、口調も呂律が回らない。
額にある違和感、浮かんだコップ、そしてもう一つ何かあった気がするのだが・・・どうにも思考が形をなしてはくれない。ただ、揺らめく水の向こうに、薄暗いラウンジが歪んでいるだけだ。
「・・・不思議コップ?」
口をついて出た意味が分からない自分の言葉に、ついついほにゃりと笑ってしまう。
「お前・・・馬鹿か?」
今度こそすぐ脇から聞こえた声に、透流は文字通り飛び上がっていた。
「あ、荒垣先輩!」
(キャイン!!)
勢い良く立ち上がったはずみで、透流の膝からコロコロとコロマルが転がり落ちていく。
「あ・・・え?コロちゃん!?」
自分の膝にコロマルが居た事さえ気づいて居なかった透流は、慌ててそちらへ向き直ると、倒れこむようにその膝を床についていた。一見コロマルに駆け寄った風に見えなくも無かったが、目の前はまるでコップの水のように歪んで見える。酷く眩暈がしていた。
それでも、何故かそれを荒垣に悟られたくなかった透流は、しこたま元気な声を出していた。
「だ、大丈夫?ごめんね。コロちゃんがいたのに気づかなくて!!」
その白い毛並みに手を伸ばし、優しくゆっくり撫でてやれば、まるで分かっているとでも言いたげに、コロマルは静かに鼻を寄せてきた。
「クゥーン」
その暖かな体温と、こちらを見つめる色素の薄い瞳に、透流はやっと全てを思い出していた。
そもそもの始まりは、今日の夕方だった。
月光祭を間近に控え、準備だ手伝いだと忙しい毎日。
そんな中だ、まるで気まぐれな天のイタズラとばかりに台風が接近して来たのは。
透流は、運悪く帰宅途中にその災禍に巻き込まれ、見事濡れ鼠となって寮に戻るはめとなってしまったのである。
そんな透流の姿に、仲間達はありがたくも一番風呂の権利を譲ってくれ、透流はすぐさまお風呂で身体を温めると、風邪を引かないようにとそのまま休む事にしたのだった。
しかし、雨に濡れ、風に吹かれた身体は思いのほか冷え切っていた。
透流は深夜に寒気を感じて目を覚ました。
布団もタオルケットも、あるだけの物を重ねたつもりだったのだが、それでも体の震えが止まらないのである。
(やっばいなぁ、熱出てきたっぽい。薬飲まなきゃ)
震える身体をなんとか起こし、部屋の一角に置いてある常備薬から風邪薬を探す。けれども、一向にそれが見当たらないのである。何度もひっくり返しているうちに、透流ははたと思い出していた。
つい先日の事だ。タルタロスに『本の虫』のおじいさんが迷い込んでしまったのは。
知り合いの失踪に、透流は焦りのあまり探索に熱を上げすぎてしまった。
結果、皆が疲労を通り越し、風邪を引くまで引っ張りまわしてしまったのである。
事情を知った仲間達が透流を責める事はなかったのだが、その事は今も透流の心に突き刺さっていた。否、透流自身がそれを自分の手で心に突き刺した、二度と同じ事をしてしまわないようにと。
その件の時である、いつでも誰でも使えるようにと、風邪薬の類を1Fの共同スペースで管理しようとなったのは。
それを思い出し、透流は「しまったなぁ」と独りごちた。
こんなことなら、せめて一つ二つだけでも残して置けば良かったと思うのだが、それも後の祭りである。
これだけ着こんで寒気を感じている以上、ただ寝ていても症状は改善されない。
そうなれば、更に悪化して、また皆に迷惑をかける事になってしまうのは明白だろう。
時計を見れば既に夜中の2時を越え、ゆかりや風花に頼める時刻はとうに過ぎてしまっていた。
「仕方ないかぁ」
ため息一つ、透流はパジャマの上から自分の持っている中で一番暖かいコートを羽織ると、ラウンジへ向かう為に部屋を後にした。
(・・・こんなに、遠かったっけ?)
たかだか数メートルのはずの廊下が、妙に長く感じた。
しかも、床は高級絨毯でも敷かれているかのようにフワフワで、階段はタルタロスの様に果てが無く見えた。
それでも、なんとか1Fまで降りると、透流はキッチンへと向かった。
戸棚からコップを取り出し水を汲んでいると、何かの気配が足元をくすぐる。
「クゥーーン」
足に触れる柔らかく、暖かな感触。
見下ろせば、薄暗い中に透けて浮かぶような赤い瞳。
「起こしちゃった?ごめんね、コロちゃん」
もう寝ていたであろうコロマルを起してしまった事に、透流は責任を感じてしゅんとなってしまう。それでもしゃがみ込んで頭を撫でれば、気持ちよさそうに目を細めてくれる事に、透流はほっとした。
「薬飲みに来ただけだから、すぐ戻るから許してね」
そう言って、首元の毛を梳いてやれば、「ワフッ」と小さく口の中で吼え、コロマルは先導するようにラウンジの方へと向かった。
透流は、その可愛らしい姿を微笑みながら追うのだった。
「これこれ」
ラウンジのチェストから見慣れた風邪薬の袋を探し出すと、透流は薬を飲む為にソファに腰を下ろした。
その瞬間、なんだかどこまでも沈んでいくような感覚に身体が支配されていく。
「あ・・れ・・」
急激に襲ってきた気だるさと睡魔に、透流はそのまま自分を委ねていた。
「ちょっと・・・だけ・・」
瞼が落ちる瞬間、心配そうに自分を見上げるコロマルの姿が見えた気がした。
「そっかぁ、コロちゃんだったんだね、さっきの暖かいの・・・って、なんだっけ?」
現状に至る顛末を思い出した途端、そんな言葉が透流の口をついたのだが、真実、その奥底に隠れたものを思い出す事までは出来なかった。それが眩暈のせいなのか、それとも別の理由なのか、今の透流には判ずるすべが無かった。
「・・・おい」
ぼーっとそんな事を思いながらコロマルを梳いていた透流の耳に、背後からいつもより2段は低い声が響いた。
その声音に、透流はビクリと身体を震わせ恐る恐る振り返る。予想通りと言えば予想通りに、そこには半眼でこちらを見下ろしている荒垣の姿があった。
「おめぇ・・・なんでこんなとこで寝てやがった?」
今なら青筋の2本や3本見えても不思議じゃないなぁ。透流はそんな場違いな事を考えつつ、それが現実逃避だと言う事も承知していた。
「えっと・・・・・・くしゅん」
なんか言い訳をと思った瞬間、口から出たのは言葉ではなくくしゃみで、しかもその所為で再び寒気が身体を覆ってしまう。
透流はゾクゾクする身体を抱え込むように押さえながら、なんとか荒垣の注意を別な方向に向けようと必死に思考をめぐらす。
「・・・まぁいい。とにかく座れ。いつまで床でコロ撫で回してんだ?」
ため息と共に、テーブルにコップを置きながら、荒垣が目線だけでソファを示す。
ぺたりと床に崩れるように座りこんでいた透流は、その視線にすごすごとソファに座りなおした。
「ごめんなさい」
結局、言い訳が何も思いつかなかった透流はそう口にするしかなかった。
「風邪引くからってさっさと寝たはずの奴が、なんでこんな時間にこんなとこで寝てんだかなぁ。ったく」
荒垣が額に手をあてて盛大なため息をつけば、透流は肩を落としてうつむくしかなかった。
そんな透流の姿に、荒垣は唐突に自分が羽織っていたコートを脱ぐと、震える透流に投げかけた。
「先輩?」
びっくりして顔を上げれば、荒垣はしゃがみ込んでコロマルを一撫でし、その視線を透流に向ける。
「コロ、もう少しだけこいつあっためとけ」
「ワフッ」
言われるが早いか、コロマルは小さく吼えると、軽やかにソファに飛び乗り、その身体を透流の膝の上に横たえる。荒垣のコートの温もりと、コロマルの温もりが震えそうになる透流の身体を包み込んだ。
「・・あ・・・えっと・・・」
「薬、まだ飲んでねぇだろ?ちっと待ってろ」
テーブルに置かれたままになっている未開封の薬の袋を顎で差すと、意図が分からず困惑したままの透流を残し、荒垣はさっさとキッチン方へと消えてしまった。
「先輩・・・怒ってる・・・よね?コロちゃん」
膝の上で大人しく伸びているコロマルを撫でながら、透流がぽつりと呟けば、コロマルがじっとこちらを見つめてきた。
赤い瞳が何かを言いたそうに透流を映している。
「だめだねぇ・・・。いっつも皆に迷惑ばっかかけてて・・・」
コロマルを見返しながらため息をつくと、コロマルは「クゥ」と鼻を鳴らして撫でていた手に頭を擦り付けてきた。透流は、両の手でコロマルをゆっくりと抱きしめる。
「慰めてくれるの?・・・コロちゃんは、あったかいね・・・」
透流の目から理由の無い雫が流れて落ちていった。
「常磐」
再び荒垣の声が聞こえたのはそれから数分もしない頃だった。
「ん・・・先輩?」
甘い香りに、また眠りの淵にいた透流の意識が浮かび上がってくる。
「何も食ってねぇだろ。薬飲む前に飲んどけ」
「?」
そう言って差し出されたマグカップを受け取ると、それは手のひらに丁度いい温かさで、その香りは甘いお菓子のようだ。
コクリと一口口に含めば、牛乳の優しい口辺りの中に、ハチミツの甘さ、シナモンの香り、そして生姜の風味が広がる。それは思いのほかするりと喉を通って身体に染みわたっていくようだった。
「飲めるか?」
確認するように見下ろしてくる荒垣に、透流はにっこりと笑い返した。
「美味しいです!」
その言葉に、ほっとしたように目を細める荒垣に、透流はもう一度にっこりと笑った。
熱くなく、ぬるいわけでもなく、透流の喉に丁度いい温かさのそれは、気がつけばすぐに飲み干してしまっていた。
「先輩、これなんて飲み物ですか?」
「あ?いや、即興で作ったからな、別に名前なんてねぇよ」
そんなことを聞かれるとは思ってもいなかったのだろう、荒垣は困ったような顔をした。
「え?先輩、これオリジナルなんですか!?」
「オリジナルっつぅ程のもんじゃねぇだろ。」
目を見開いて問う透流に、荒垣は苦笑を浮かべる。
「そんなことないです!・・・・・えへへぇ」
「あ?なに変な顔してんだ?」
ペロリと舌を出して笑った透流に、荒垣が眉を寄せた。
「先輩のオリジナルレシピなんて、ワタクシ贅沢者でアリマス!」
「はぁ?・・・ったく、何言ってんだ。おめぇは・・・」
いたずらっ子の様に笑う透流から、荒垣は視線をそらせて呟くと。そのまま空になったマグカップを取り上げる。
「さっさと薬飲んで寝ろ。」
「は~~い!!」
荒垣が視線をはずしたのが照れの所為だと言う事を、透流はもう知っていた。この優しい人は、不器用なのだと。
くすりと笑んで、透流は言われた通りに薬を飲む。
「コロちゃん、ありがとうね。もういいよ」
ずっと膝の上でじっとしていたコロマルを、透流はもう一度ぎゅっと抱きしめた。
「キュ~ン」
一度大きく尻尾を振ると、コロマルが静かに膝から床へと降りる。それを見届けてから視線をテーブルに移せば、片付けようと思っていたコップは、既にそこには無かった。
「ついでだ。片しといてやるからおめぇはさっさと上がれ」
マグカップとコップを片手にもったまま、荒垣はすでに背中を向けて再びキッチンへと消えていってしまった。
「お礼・・・いいそびれちゃったね」
コロマルに話しかけながら、透流はゆっくり立ち上がった。荒垣のおかげで、内側からは温まった。とはいえ、眩暈と寒気は確実に先ほど降りてきた時よりも酷くなっている。
気づかれないように、それだけに注意して会話をしていたつもりだが、どこまで上手くいったか正直自信が無かった。
荒垣は鋭い。それがわかっているから、余計に心配をかけたくない。あの人は、多分この寮の誰よりも"仲間"を気遣う人だ。
自分でそう思った事に・・何故か透流の胸がチクリと傷んだ。
透流は、荒垣が戻ってくる前に部屋に戻らなければと、階段まで文字通り転がるように歩を進めた。
もう床はフワフワどころかブヨブヨしている。
それでも、ピタリと横をついてくるコロマルの存在に支えられ、なんとか階段までは辿り付くことができた。
「ありがとうね、今日は散々迷惑かけちゃったね」
最後とばかりに頭を撫でると、まだ不安そうにコロマルが見上げてきていた。
「大丈夫だよ。だから、もう戻っていいよ」
そう言って笑ってみても、コロマルはじっと見上げたまま動こうとはしない。
もう一度だけその頭を撫でると、透流は階下にコロマルを残したまま階段に足をかけた。
コロマルは頭のいい子だ。自分があがって行けばすぐ戻るはずだといい聞かせて。
だが、階段はどこまで上っても先が無いようだった。
手すりに縋って、足を動かしているはずなのに、3階どころか2階さえが遥か彼方に見える。
(早く戻らなきゃ・・・大丈夫、まだ歩けるはず・・・ま・・・だ)
そう自分に言い聞かせて、また一歩足を動かそうとした時。耳元で声がした。
「無理すんな。」
耳慣れた、けれど聞こえてはいけないはずの声。
透流は「無理なんか」と虚勢を張ろうと振り向いて、そして気がついた。
そこは階段で、勢い良く反転したその先には・・・・足場など無かった。
ユメに、ウツツに堕ちて行ったその先で
ひどく優しく悲しいものの感触を感じた
「・・・って・・・でしょ」
「・・・一・・・でアリマス」
声が聞こえる。
「も・・・だめ・・・ってば」
「まぁま・・・アイ・・・・・から」
大切な仲間達の声が。
「ん」
「・・って言って・・・って、透流?」
誰かが駆け寄って来る気配がして、透流は重い瞼をなんとか持ち上げた。
「ゆか・・・り?」
「起きた?大丈夫??」
顔を覗きこんでくるゆかりにぼんやりと頷きながら、透流は辺りを見回した。
「透流ちゃん、もう平気?」
「熱は下がったでアリマス!」
風花とアイギスもゆかりの後からやってきて、こちらの様子を伺っている。
「えっと。なんでベッド??」
どうやら自分の部屋の自分のベッドの中なのは分かったのだが、何故そこに自分がいるのか透流は覚えていなかった。そんな透流に、ゆかりがベッドサイドに座りながら呆れと安堵の入り混じった顔で見つめてきた。
「何寝ぼけちゃってるかなぁ。この子は。」
風花もずれたタオルケットを直しながら、苦笑する。
「透流ちゃん、昨日の夜からずっと寝込んでたんだよ。覚えてない?」
覗きこんでくる風花の瞳に、う~~んと頭をひねる。
「ずっと、寝てた?私」
「そうだよぉ、もう、心配させるんだから。こいつめ」
ゆかりがツイとその指で透流の頬をつつく。
「ごめんね、でも熱下がったみたいだし、もう大丈夫だよ!」
「熱は下がったでアリマス!」
元気一杯答えて見れば、アイギスもうんうんと同意してくれる。しかし、ゆかりの目は笑ってはくれなかった。
「だ~め!今日はこのまま寝てなさい!!」
「そうだね、熱だけが風邪の症状じゃないし。まだ休んでた方がいいよ。透流ちゃん」
「薬は持って来たでアリマス」
手のひらを返したように向こう側でうなずくアイギスに、何故か裏切られた感を覚えながら、透流は「は~い」と殊勝な返事を返した。
「よしよし、もしまだ反論するようなら、冷蔵庫のプリン没収の刑にしようと思ってたけど大丈夫そうね」
ニヤッと笑って言うゆかりに、透流は目を見開いていやいやとかぶりを振る。
「私のプリンだもん!!食べちゃダメ!!」
「大丈夫だよ、後でもってくるからね。あ、ご飯は食べられそうかな?」
くすくすと笑う風花に、こくりと頷けば、優しい瞳が返って来る。透流はそんなみんなに、なんだか嬉しくなって声を上げて笑い・・・情けなくも咳き込んでしまった。
「まったく、病人なんだって言ってるでしょうが」
「透流ちゃんったら」
「熱だけじゃないでアリマス!」
3者3様に責められて、あぅあぅと唸る透流に、ゆかりが苦笑しながらその手を伸ばす。
「ま、実際熱は下がったみたいだし、後は寝てなさい。一旦私達は帰るから」
「そうだね、また後でご飯もってくるね。」
「プリンもそれまで死守するでアリマス。」
ゆかりの手の温もりが額から伝わってきて、その心地よさと、違和感に透流は軽く首をかしげた。
「ん?なんか欲しい物ある?」
「ううん、ありがとう。なんでもないよ」
にっこり笑って答える透流に、ゆかりも微笑みながら頷くと、風花とアイギスを促した。
銘々に「おやすみ」と口にして部屋を後にする、音もなく扉が閉じられた。
透流は、ふと自分の額に手を当てていた。
ゆかりが触れたそこは、すでに熱を持ってはいない。
だけど、自分のでも、ゆかりのものでもない何かが触れたことを、透流の身体は確かに覚えていた。
記憶にあるのはコップの冷たい感触。
膝にかかる心地よい重さと温かさ、甘く優しい香り、そして・・・
あれは夢だったのだろうか?
記憶に無いのは、優しく、切ない感触。
身体を支える大きな手、額に触れるほっとする温もり・・・・
それは現だったのだろうか?
ユメか ウツツか コタエはきっと・・・
∞――――――――――――――――――――――――∞
夜は嫌いじゃない
でも、眠るのはイヤだった
夢ではないユメを見るから
起きてしまえば後味の悪さだけが残るそれに
私はいつもうんざりしていた
夜は嫌いじゃない
でも、眠るのはイヤ
そう思っていたけれど
不思議とイヤではなくなっていた
額に残る温もりが
夢も現も飲み込んで
私をメザメサセテクレルカラ
∞――――――――――――――――――――――――∞